石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』シーズン4感想

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リッチフィールドがアブグレイブ化。どのシーズンにも劣らぬおもしろさ!

Netflixオリジナルの女囚ドラマ、シーズン4。大量収監と新看守たちにより、リッチフィールド刑務所がアブグレイブ化します。衝撃的なプロットと社会的テーマ、そして軽妙な笑いがあいまって、これまでのどのシーズンにも劣らぬおもしろさでした。

第1話と第12話の衝撃

シーズン4第1話「ベテランに任せろ」の冒頭はシーズン3のラストシーンからの続きで、非常にコミカルなトーンで進みます。「今シーズンはこれまでよりコメディ寄りになるのかしら」とも思ったのですが、その予想は第1話の終わり頃になって完璧にひっくり返されました。あのヘビーで陰惨で、かつ皮肉な笑いを含んだ展開ときたら、そうね、ドラマ版『ファーゴ』シーズン1にもまったくひけをとらない迫力だと言えば海外ドラマ好きの方にはわかりやすいでしょうか。これがあるからこそ、敢えて前半を軽やかにしたんですね、なるほど。

この第1話での出来事は、シーズン全体に通底する伏線として有効に活用されていきます。おかげでバッドアスな婆さん受刑者フリーダ(Dale Soules)の魅力も存分に楽しめるし、第11話「ただ力になりたくて」の悲痛なシークエンスにも胸潰れるしで、脚本の妙に何度も唸らされたのですが……まさか、第12話「なれの果て」にこれ以上に大きな衝撃が待ち受けているとは! 第1話の衝撃がレンガで頭を殴られたようなものだとしたら、第12話のそれは、頭の上から4トントラックが落ちてきたようなもの。これだけの人気シリーズで、ここまで思い切ったことをやるとは!!

ニューヨーク・タイムズ(リンク先ネタバレ注意)によれば、12話で起こることをS4の撮影前から知らされていたのは事件の中心となるキャラ役の役者さんひとりだけで、他のキャストには完全に伏せられていたのだそうです。この回の脚本が配布されたときにはキャスト一同からものすごい反応が巻き起こり、撮影時には皆泣いたとのこと。おそらく観客も、今頃世界中で泣いているのでは。

そして、この12話での出来事がほんとうに凄いのは、これが単に観客の感情を揺さぶるためだけの安っぽい「驚きの展開」などではなく、シーズンの中心にある社会的テーマとダイレクトにつながったものであること。ショックがおさまらぬままシーズン最終話(第13話)を見て、ようやくあれがあのキャラでなければならなかった理由に気づき、二度目のショックを受けましたよあたしは。

社会的テーマあれこれ

ドラマ版『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(原題Orange Is The New Black)は、実際に受刑者だったパイパー・カーマンのメモワールOrange Is the New Black: My Time in a Women's Prisonを元にした作品です。ドラマは原作本とはかなり違っていて、たとえば原作のパイパーは元カノのドラッグディーラー(ドラマ版のアレックスに該当)と同じ刑務所にいたことはなかったりします。受刑者同士の対立や恋愛にしても、ドラマの方がよっぽど盛ってます。しかしながらこのドラマ、中心にあるテーマは、パイパー・カーマンの主張と1ミリたりとも変わらないんです。特にこのシーズン4ではそれが顕著だと言えます。

カーマンは現在、米国の大量収監に反対し、刑務所の環境改善や受刑者の人権保護を訴える活動を続けています。コスモポリタンでのインタビューで、彼女はこんなことを言っています。

1980年にはわたしは11歳で、刑務所には50万人の受刑者がいました。現在、刑務所と拘置所には240万人が収監されています。実は米国がこの道を選んだのはごく最近のことで、全然違うやり方ができるはずなんです。

In 1980, I was 11 years old and there were 500,000 people in prison. Today there are 2.4 million people in prisons and in jails. We've actually chosen this path really recently and we can do things very, very differently.

女性を犯罪に巻き込み、刑務所に送り込む理由として圧倒的に多いのは何であるのかはっきりわかっています。薬物濫用、精神疾患、性的暴行、そしてその他の肉体的虐待です。問題は、刑務所に入るとこれらの問題が全般的に悪化し、女性たちはストリートで経験してきたようなネグレクトや虐待を刑務所でもまた受けるということです。

We know exactly what overwhelmingly drives women and girls' involvement in crime and women and girls' incarceration: substance abuse, mental illness, and an experience of sexual assault and other forms of physical abuse. The problem is that incarceration makes these problems worse across the board, and the neglect and abuse that women experience out in the streets just continues when they're incarcerated.

シーズン4には、これらのテーマがこれでもかというほど詰め込まれています。大量収監や、その背後にある人種差別と刑務所ビジネスの問題については、たとえば第5話「ボルチモアの思い出よ、永遠に」に顕著です。それ以外の論点についても、薬物についてはニッキー(ナターシャ・リオン)を、精神疾患はスザンヌ*1(ウゾ・アドゥバ)やローリー(ロリ・ペティ)を、性的暴行については看守の「ドーナツ」ことチャーリー・コウツ(James McMenamin)を、そしてその他の肉体的虐待については今シーズンから新たに登場する元軍人の看守たちを通して、このドラマは力一杯メッセージを投げかけ続けています。

またそのメッセージの伝え方がうまいの。相変わらず人物描写が巧みな上にダイアローグがいちいち気が利いていて、毒もギャグもてんこ盛りで。特に際立っていたのは、「ドーナツ」がペンサタッキー(タリン・マニング)とのやりとりで見せる、レイプについての見解でした。あんな考えを持っている人は日本にも、いや、世界中どこにでもいるはずで、リッチフィールドで起こっていることは米国のみならずこの現実世界すべてと地続きなのだと改めて気づかされました。そうそう、上の方で書いた12話での事件にしても、日本でもそっくりな事件がありましたよね? OITNBはそういうドラマ、極上のエンタテインメントでありつつも常に現実を反映し続けているんです。

笑いについて

前述のタフな婆さん、フリーダの言動のいろいろや、モレロの下ネタ、あるカップルがセックスしたことをニッキーがすばやく嗅ぎつけるところなど、今回も笑いに事欠かないシリーズでした。中でも特に気が利いていたのが、第5話のラストシーン。お馬鹿な白人受刑者たちが有色人種への偏見をつのらせて「白人の権利!」("White Lives Matter!")と唱和する場面でさりげなくかかり始めるあの曲は、実は映画『キャバレー』の"Tomorrow belongs to me"。ブロンドヘアーのサワヤカな青年がナチスに入隊し、周囲の人と「明日は我のもの」と大合唱するという場面で使われていた曲です。

つまり、ここの選曲は、「おまえらこのナチスとやってることは同じじゃんかよ」という哄笑なわけ。パイパーのおろおろ顔だけでも言いたいことは十分に伝わるのですが、さらにこういうブラックな笑いをも上乗せしてくるところがさすがだと思いました。

まとめ

シーズンを重ねて失速するドラマも多い中、OITNBがこれだけのクオリティを維持し続けているのはまことに称賛に値すると思います。Netflixが見られる環境にある方は、ぜひ。蛇足ながら今シーズンでのレズビアン要素は多すぎもせず少なすぎもせずで、いちゃいちゃもあればレズビアンとヘテロ女性がつきあっていく難しさをさらりと描く場面もあり、よかったです。そういう意味でも、ぜひ。

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*1:なぜか日本語訳だと『スーザン』なんですね。でも綴りはSuzanneだし、発音もどう聞いても「スザンヌ」なので、うちのブログではこちらの表記にしておきます。