石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

英下院議員、妻と子がいるから自分は「ノーマル」と発言し批判さる

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英国労働党の党首選に出馬したオーウェン・スミス(Owen Smith)下院議員がインタビュー中、妻と三人の子供がいる(から)自分は「ノーマル」であるという趣旨の発言をし、批判を浴びています。

詳細は以下。

Labour’s Owen Smith says he’s ‘normal’ candidate because he has a wife and three kids ・ PinkNews

この発言は、スカイニュース(Sky News)によるインタビュー中になされたもの。自分自身をノーマルとみなしていますか、というインタビュワーからの問いに対し、スミス氏は以下のように答えています。

わたしがノーマルだと思ってくださってうれしいです。わたしはノーマルです。ノーマルな家庭で育ちました。妻と三人の子供がいます。妻は小学校の教師です。

“I’m glad you think I’m normal. I am normal. I grew up in a normal household. I’ve got a wife and three children. My wife is a primary school teacher.

動画(英語字幕つき)は以下。

何がまずいって、この時点でスミス氏とおなじく党首選に出馬表明していた、つまり氏のライバルであるアンジェラ・イーグル(Angela Eagle)議員はオープンリー・レズビアンであり、かつ、子供がいないということ。この状況で、異性と結婚していて子供がいる自分は「ノーマル(正常)」だと発言するのはいくらなんでも迂闊ではないかという指摘が上がっています。

PinkNewsで紹介されている、ジャーナリストのジェイムズ・ボール(James Ball)氏とマリー・ルコント(Marie Le Conte)氏の意見はこちら。

訳:「わざとやったんではないと思うんだけど、これってちょっとホモフォビックな感じがしない?(少なくとも自分はそう感じる)」

訳:「わたしが過敏なのかな? 現時点での対抗馬が子供がいない女性同性愛者だという状況で自分は『ノーマル』だと言うのは、ちょっとまずいよ」「文脈から言って悪意があったようには見えないけど、まったくもう! 古参の政治家たちよ、メディアに対して発言するときの話し方を学びなさいよ! そんなに難しくないわよ!」

なお、Evening Standardによれば、スミス議員の側近は「彼はただ自分はふつうの("ordinary")人だと言おうとしただけ」であると説明しているとのことです。

個人的な意見を言わせてもらうと、レズビアンであるあたしの目から見ても、スミス氏の発言はやはり悪気のないものであるように思えます。ただし、その上で、非常に迂闊な発言であるとも思います。いくら本人にそのつもりはなくても、これじゃまるで「異性とつがって子をなすことだけをノーマル(正常)とする」という大昔の線引きに乗っかってイーグル氏や、ひいては世の非ヘテロ/シングル/子供がいない人全般を貶めているかのようにも見えかねないじゃないですか。こんな脇が甘いしゃべり方をする人に政治家がつとまるわけ? ましてや、党首が?

(なお、ここでいう『異性とつがって子をなすことだけをノーマル(正常)とするという線引き』や、それが引き起こしてきた問題については、以下の本が参考になるかと思います。

当ブログでのこの本のレビューはこちら:『同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル 』(牧村朝子、星海社新書)感想 - 石壁に百合の花咲く

さて、元記事のコメント欄では、この文脈で「ノーマル」という語を使うことの是非について、2016年7月26日現在で101件ものコメントが書き込まれています。つまりそれだけ紛糾しやすい、取り扱い注意の単語なんですよこれって。セクシュアリティ関連の文脈での「ノーマル」という語が、現代の英語圏でどのような受け止められ方をしているのかを知りたい方にとっては、これらのコメントは何よりの資料になるのでは。

全部読んでる時間がない方のため、以下、いくつかのコメントを抜粋して紹介してみます。

まず、インタビュワーがわざわざ「ノーマル」などという語を持ち出したのが悪かったのであり、スミス氏に非はないとする意見がこちら。

彼は自分がノーマルかどうかと聞かれたんだ。だから、並みの(average)人間だという意味で、「ノーマル」な自分に関することを話したんだ。

He was asked if he was normal. So he said stuff about himself that is "normal" as in average.

(インタビュワーが『ノーマル』という語を使って質問したのは)彼をはめるための罠だったのかも。

It may have been a trap set for him.

これらに対する反論はこちら。

「ノーマル」は"regular"(通常の、ふつうの、まともな)と同義ではないのだから、キャスターにこんな風に質問されたら、すごく危険だとわかるはず。もしオーウェンが賢ければ、質問に答える前にインタビュワーの誤りを指摘していただろうよ。

The way the broadcaster put forward the question raises a lot of red flags because being 'normal' is not the same as being 'regular'. If Owen was smart, he would have corrected the interviewer before proceeding.

具体的にどんな風に答えればより適切だったのかという意見も上がっていました。

「わたしがノーマルか、ですって? 自分のことはordinaryな(通常の、並みの、ありふれた)男だとみなしております。今日の英国に住む何百万人もの人々と、人生経験において何ら変わるところはありませんよ」

ほら、そんなに難しくもないでしょ?

"Am I normal? I would consider myself as an ordinary person. No different in life experience of millions of others in Britain today." There that wasn't hard was it?

そして、そもそもなぜスミス氏がここで"average"や"ordinary"のような誤解が起きにくい語を選ばず、「ノーマル」という語を使ってしまったのかについての推察はこちら。

LGBTの人々に対してまったく敵意を抱いていない人の多くが、「ノーマル」という語を、LGBTの人々の多くが思うほどには挑発的だとも好ましくない事態のきっかけになるものだとも思っていないんじゃないかと思う。彼らは「ノーマルじゃない」と言われながら育ってきてはいない。そのため、ノーマルであることやその反意語について、すぐさまセクシュアリティの観点から考えたりはしない。彼らはノーマルという語を、(セクシュアリティというより)普通さ(ordinariness)という意味で考えている。それゆえ、妻が小学校の先生であることを持ち出したりするというわけだ。

I suspect that many people who are not at all hostile to LGBT people just don't see the word "normal" as the red rag or trigger that many of us do: they haven't grown up being told they're not normal. That means that they don't automatically think of normality or its opposite in terms of sexuality. They think of it more in terms of ordinariness--hence his reference to his wife as a primary school teacher.

これには一理ありますし、日本のマジョリティの多くにも似たようなことが言えるのではないかと思います。以前日本語によるネット上の書き込みで、「ノーマルはポケモンや車のカスタムにも使う言葉だから、差別の意味などない。したがって異性愛者を『ノーマル』とするのは差別的ではない」などとする珍説を見かけたとき、「英語に疎いにもほどがあるだろう」と思っていたのですが、こうしてみるとあれは語学的知識の問題ではなかったのかも。ノーマルという語を性的指向や性自認の文脈から考えたことがなく(考える必要に迫られず)、せいぜいポケモン用語や車用語としてしか使わずに生きて来られたシアワセな人であれば、ツルッとこういうことを言えてしまうのかも。しかも、本人的にはまったく悪気はないつもりで。

上記のコメントに対する応答で、非常に納得が行ったものがこちら。

同意だが、彼は政治家なのであって、政治家というものはもっとよく考えなければだめだ。政治家は、どこにでもいる平均的男性とは違う。政治家はこういう事柄に関して提出された法律を制定しさえするのだから、当然議会に出席し議論をしなければならない。このような言葉は非常に侮辱的であるとわかっていなければならない。彼がもしこれまで誰からもこういう指摘を受けたことがないのなら驚きだよ。彼は議会でもこんな話し方をしているのか?

I agree, but he's a politician, and they should know better. He's not an ordinary joe. He even has legislation presented to him on these issues, and should be present and engage in debates on this. He should understand that using such language is quite offensive. If nobody has ever pointed this out to him I'd be surprised. Is this how he talks in Parliament?

まったく同感です。

以上、駆け足で6つだけ元記事のコメントを紹介してみました。英和辞典などで逐語的な定義をながめるだけではわかりにくいであろう、セクシュアリティ関連の話題における「ノーマル」という英単語のニュアンスが少しでも伝われば幸いです。

最後に自分の見解をつけくわえておくと、あたしはセクシュアリティに関する話題で「ノーマル」という語を一律で禁止ワードにすべきだと思っているわけではありません。問題なのは特定の性のありようだけに「ノーマル(正常)」の座を独占させて人間を「ノーマルな一等市民」「ノーマルではない二等市民」に振り分けるという行為であり、この悪習を廃して最初から全員が一等市民だという前提に立つことがもっとも大事だと思っています。その意味で、今回の報道に対してもっとも共感したリアクションはこちら。ジャーナリストのパトリック・キッド(Patrick Kidd)氏によるツイートです。

訳:「役に立つかどうかはわからないけど、オーウェン・スミスの件についてひとこと。子供がいることはまったくノーマルだ。子供がいないこともまったくノーマルだ。同性愛者であることもまったくノーマルだ。人生は豊かなタペストリーなのであって、そのことを祝おうよ」