石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

クィアな海賊娘の痛快グラフィックノベル―"Princeless: Raven The Pirate Princess Book 1: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew" (Whitley, J., Higgins, R. & Brandt, T. Action Lab Entertainment)感想

Raven Pirate Princess: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew #TPB 1 (Princeless Raven Pirate Princess Tp)

これは読まなきゃもったいない!

先日紹介したグラフィックノベル"Princeless: Raven The Pirate Princess"があまりに面白いので、もう少し詳しい感想をまとめてみました。女子好き女子の冒険活劇に目がない人なら必読の一冊なのよ、これ!!

あらすじと主な見どころ

本書は、2016年7月から毎月1話ずつ発売されている"Princeless: Raven The Pirate Princess"(直訳すると『王子なし: 海賊王女レイヴン』)シリーズの第1話から第4までを収録した単行本。ちょうど日本の連載漫画における単行本のようなものだと思ってもらえれば、だいたい合ってます。まずはあらすじと主な見どころについて、以下に先日のエントリから引用しておきます。

17歳の非白人クィア少女「レイヴン(別名ブラック・アロー)」が、乗組員が全員女性の海賊船を率いて冒険に乗り出すコミック。物語は、海賊王だった父の後を継ぐはずだったレイヴンが、悪辣な兄弟たちによってすべてを奪われ、「ここで王子様を待ってろ」と塔に閉じ込められ、そこから脱出して船を手に入れるところから始まります。女の子同士のキスシーンもありますが、ただの甘ったるいガール・ミーツ・ガールものではなく、常にスピード感ある展開とクールなアクションが楽しめるところがポイント。格闘シーンときたらまるでよくできた映画を観ているようだし、ミソジニストの男性キャラ連中を皮肉る部分も最高だしで、これを読める小学生はつくづく幸せだと思います。

その他の見どころ1: 魅力的すぎるキャラたち

独力で道を切り開く主人公レイヴンももちろんかっこいいのですが、ひとりひとり彼女の仲間になっていく女の子たちもみなとんでもなく魅力的です。人種も体型もセクシュアリティもさまざまな彼女たちがそれぞれの見せ場で大活躍するところは、子供から大人まであらゆる読者(特に、女性の)が楽しめるものだと思います。

あたしのお気に入りは、踊り子のサンシャインが悪漢一味に絡まれた後、それまで彼女と衝突していたレイヴンが助けに入り、ふたりで大暴れする場面。敵にぐるりと囲まれたふたりが背中合わせで(※以下、日本語訳はすべてみやきちによります)、

レイヴン「あんたとあたしの間のけりはついてないからね。こいつらを片付けたら、ちっと話があるんだ」

サンシャイン「そうね、ブラック・アロー……この場を切り抜けさせてくれたら、なんでも好きなことを言えばいいわ」

……なんて会話を不敵な表情で繰り広げるあたり。どんなバディムービーかと思いましたよもう。冗談抜きでこれ、どっかで実写映画化してくれないかしら。ディズニー/ピクサーあたりによるアニメ化も歓迎。

他によかったのは、大柄で超ダイキ―な女海賊ケイティが酒場で男から「デブ」呼ばわりされ、「あたしはあたしのサイズが気に入ってるんだ」と言って圧倒的パワーで反撃するところ。それから、本の虫で「爆発物の専門家」の少女ジェイラが、過保護な父親を振り切って旅に出るときこんなことを叫ぶ場面も。

父さんが何を考えてるかはわかってる。あたしが本を読むのは時間の無駄! あたしがやってる科学はお遊び! あたしがしゃべるときはいつだってしゃべりすぎ!

ジェイラと同じようなことを言われて学びを阻害されてきた世界中の女たちが血の涙を流しながらうんうんとうなずくところが目に見えるようです。つまるところ、この作品に登場する女性たちの魅力の根源は、こういうところにあるのでは。現実世界で女性が押し付けられているさまざまな困難(女だからと相続権を奪われる・舐められて暴力をふるわれる・体型をジャッジされる・学ぶことを妨害される等々)に、全力でNOをつきつけてくれるんです、彼女たちは。

その他の見どころ2: さりげないセクシュアリティ描写

レイヴンがクィアだとはっきりわかる場面のさりげなさに拍手。彼女の昔なじみの男性キャラ、クッキーが、レイヴンが作れる料理の少なさに驚いたとき、彼女はこんな会話をするんです。

クッキー「レイヴン、男をつかまえたかったらもう少しレシピを習えよ」

レイヴン「ああ、あたしにゃあんまり関係ないんで」

これだけ。このシンプルさが、かえってとてもうれしく感じられました。「今現在あからさまに同性パートナーがいたり、同性に恋をしたりしている描写があるキャラだけが非ヘテロで、そうでないキャラは自動的に全員ヘテロ」みたいな雑な世界観には、もううんざりですから。

ちなみに本書ではロマンスの要素も筆加減が絶妙で、けばけばしい演出は皆無。真実味があり、かつ今後の予測がつかない、心憎い描き方でした。

その他の見どころ3: ケイティのスピーチ

レイヴンの船の乗組員を集めるため、ケイティがギルドの女性たち相手にしたためるスピーチが最高すぎます。"I'm tired of..."で始まるセンテンスが3回繰り返される部分では、噴き出しつつもめちゃくちゃ共感してしまいました。その場にいたらあたし、諸手を上げて海賊になったと思うわ。

まとめ

女の子が冒険するお話でワクワクしたいおちびさんから、世の家父長制や女性蔑視にうんざりしているおとなまで、広くおすすめできる快作。これまでグラフィックノベルはあまり読んだことがなかったのですが、こんな爽快なものが読めるジャンルをまるまる見逃していたことをたいへん口惜しく思います。この"Princeless: Raven The Pirate Princess"シリーズは2016年11月現在で2巻(Book 2)まで刊行されており、12月には3巻(Book 3)が出る予定なので、まずはこの2冊を絶対に読まなければ。

Raven Pirate Princess: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew #TPB 1 (Princeless Raven Pirate Princess Tp)

Raven Pirate Princess: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew #TPB 1 (Princeless Raven Pirate Princess Tp)