石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

BBCのクリスマス広告で男性同士がキス

Oda Mobiles(オダモビール) クリスマスの飾り ペーパーリース ヤドリギ(大)

BBCの2016年版のクリスマスCMで、男性ふたりがヤドリギの下でキスをしています。しかも、少なくとも現時点では、どの保守的メディアからも苦情は出ていないんだそうですよ。

詳細は以下。

There’s A Lovely Gay Mistletoe Kiss In The BBC’s New Christmas TV Ad (And No One Has Complained!)

まずはCMをどうぞ。

The Gailygrindによると、このCMのBGMは、ルーシー・ローズによる"Merry Christmas Everyone"のカバーバージョン。よく見ると、「ヤドリギの下、キャンドルの灯りのそばでキスをしよう」("Underneath the mistletoe / We'll kiss by candle light")という歌詞のところで男性同士がキスをするようになっていたりして、なかなかに芸が細かいです。

この動画が公開されたのが2016年12月4日。The Gailygrindによれば、少なくとも12月6日の時点で、「英国の悪名高い保守的報道機関からでさえ」、この広告に対する苦情はひとつも出てきていないんだそうです。時代は変わりつつあるんですね、やっぱり。

……と、これだけ書いて終わりにすると、我がジャパンでは「また欧米発のキラキラLGBTイメージか」「我が国にはこんな表現はなじまない」「キラキラしていないLGBTのことも考えるべきだー!」などと言って雑に片づけてしまう人も出てきそうなので、ちょっと補足を。以下『同性愛嫌悪<ホモフォビア>を知る事典』(ルイ=ジョルジュ・タン編、明石書店)からの受け売りになりますが、英国って、中世には同性愛は溺死刑または火刑とされてた国ですよ。16世紀から18世紀だと首吊り刑。晒し台にかけられて、石などを投げつけられて殺された人もたくさんいたそうです。19世紀には、同性愛は「最長2年の強制労働の懲役刑」の対象とされ、オスカー・ワイルドが禁固重労働に処せられています。20世紀にはマッカーシズムの影響で同性愛者の大量逮捕が進み、当局は1955年だけで2500人以上を逮捕。ラドクリフ・ホールは『さびしさの泉』を発禁にされて亡命し、アラン・チューリングは自殺しています。

さすがに現在の英国では、同性愛が犯罪とされることはなくなりました。2005年にはシビルパートナーシップ制度ができましたし、北アイルランド以外では同性婚も可能となっています。ですが、それでは差別はなくなったのかというと、全然そんなことはありません。うちのサイトで紹介しただけでも、こんな事件がざくざく見つかるぐらいです。これ全部、21世紀の話ですよ。

このほか、つい先日、Brexit後の3か月間だけでホモフォビックなヘイトクライムが147%増えたのも記憶に新しいところです。つまり、暴力とそれに対する抵抗の歴史は今なお脈々と続いていて、このCMのようなポジティブな表象も、いわばその抵抗の一部であるわけ。むしろ抵抗の最先端なわけ。そういった経緯を考えず、日本のアホな広告代理店が金儲け目当てで輸入した流行語としての「(なんだかキラキラした日本独自の解釈の)LGBT」イメージに引きずられて斜に構えるのはよく言って呑気、悪く言えば烏滸の沙汰だとあたしは思ってます。このキスが可能になるまでに人がいっぱい死んでるんだよ、今だって危険に晒されてる人がいる(つい最近も、ナイフで殺されそうになった人がいましたよね)んだよ、このほのぼのしたキスシーンもまた、ひとつの戦いなんだよ。