石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

三角関係に(ついに)進展が!!!!(※追記あり)―"Princeless: Raven the Pirate Princess Book 3: Two Boys, Five Girls, and Three Love Stories" (Whitley, J., Higgins, R. & Brandt, T. Action Lab Entertainment) 感想

Princeless- Raven: The Pirate Princess Vol. 3: Two Boys, Five Girls, and Three Love Stories

とうとうラブストーリーが焦点に

クィアな海賊娘レイヴンの冒険を描くグラフィックノベル、第3巻。女同士の三角関係に大きな進展がみられる一方、続刊への引っ張り方もお見事。差別や不平等への反発も相変わらずパワフルで、新キャラ・レイラニの決め台詞が特に痛快です。

キスはあるわ告白(?)はあるわの大盤振る舞い

3巻のストーリーは、2巻で瀕死の重傷を負った航海士ジメナを救うため、レイヴンが癒しの島の聖母レイラニに助力をあおぐというもの。1巻からさりげなくほのめかされていたレイヴンとジメナとサンシャインの三角関係が、ここにきてついに表舞台に飛び出します。あの人からあの人への唐突なキスに度肝を抜かれたと思ったら、次の瞬間にはさらに予想外の台詞が出てくるし、レイヴンはレイヴンでレイラニ相手の流血のバトル中に思いっきり自分の想いを叫び始めるしで、あたかも盆と正月がいっぺんに来たかのごとき(いや、この世界には盆も正月もないとは思いますが)百合フェスティバル状態です。それでいて、いわゆる「はしごをかけておいて外す」テクニックが手堅く使われているところも心憎く、特に最終ページの最後のコマの台詞には大いにウケました。レイヴンにはちょっぴり気の毒だけど、続き物はやっぱりこうじゃなくっちゃね。

差別へのカウンターあれこれ

このシリーズに通底する、差別や不平等への怒りは今回も健在。「女は地図が読めない」などの偏見を笑い飛ばす部分でニヤリとさせてくれる上に、海賊嫌いのレイラニのとある台詞が最高でした。長い髪に花をつけた、一見おとなしやかなプリンセス風の聖母レイラニは、レイヴンを掌底一発で吹き飛ばしてから、毅然とした表情でこう言い放つんです。

「ドレスを着て笑っていてフェミニンなものが好きだからといって、わたしが弱いだなんて思わないで」

"Do not assume that because I wear a dress and lahgh and like things that are feminine that I am weak."

この! コマが! かっこよくてかっこよくて!

そして実際、レイラニはめちゃくちゃ強いんです。彼女が使う技は、おそらくハワイの伝統格闘技(Kapu Kuialua)。そこらの男性兵士より格段に強いはずのレイヴンでさえ、レイラニとの勝負ではいいように叩きのめされ、鼻の骨を比喩ではなく物理的にへし折られてしまいます。女性性と強さは両立しうるということをアクションを通して伝えてくれるキャラ、それがレイラニです。

この場面を読んでいて、前世紀に日本で放映されたスポーツアニメで、女性主人公を強くするために鬼コーチが「(主人公には)女を超えてもらう」と言う場面を見て、子供心に釈然としなかったのを思い出しました。なぜ「女で、かつ強い」じゃいかんのかと思ったんですよね、子供なりに。21世紀の今、この作品に「それでいいに決まってる!」と太鼓判を押してもらえたようで、なんだかほっとしました。

他によかったのは、サンシャインの両親のなれそめのエピソードや、「犯罪者」についてレイラニの衛兵ティファニーが同僚相手に言う台詞など。どちらも、異質な相手との共存という今日的なテーマを子供にもわかりやすいかたちで描いていると思いました。米国の映画やドラマは社会に実際にある/あった問題をえぐるものが多いと思うんだけど、コミックもまたそうなのかも。

その他

  • サンシャインとケイティの会話で、どこからどう見てもダイキ―なケイティのセクシュアリティに意外な側面があることが明かされます。これはこれで今後の描写が楽しみ。一方、ここでのサンシャインの受け答えも面白いです。キャラの性的指向の表現って、いちいち「ゲイ」とか「バイセクシュアル」とかの単語を使わなくたって全然やれるもんなんだなあ。
  • この巻のサブタイトル"Two Boys, Five Girls, and Three Love"から、ひょっとしたらヘテロ恋愛の要素も混じってくるのかと思っていたのですが、実際にはこの巻(kindle版)に登場する異性愛はサンシャインの父母の過去話だけでした。話の中心は、あくまでガール・オン・ガールの関係にあります。

まとめ

現時点でもっともラブストーリーの要素が強い巻だと思います。それでいて恋愛だけに終わらず、疎外された者の痛みや怒りに寄り添い続けるシナリオが、とてもよかったです。なお、Action Lab Entertainmentの公式Tumblrによると、レイヴンのシリーズはアートチームの変更に伴う小休止の後、"Raven: Love and Revenge"(『レイヴン:愛と復讐』)という新章に突入する予定だとのこと。ついにあのクソ兄貴たちへの復讐が本格的に始まりそうで、ガールズたちの恋の行方ともども超楽しみです。

追記(2017年1月20日)

上記感想はkindle版のものです。後日入手した紙の本と見比べて気づいたのですが、kindle版ではなぜか、紙の本の冒頭に収録されている第7話がカットされています。のっけから三角関係のうちのとある組み合わせに焦点が当たっている百合百合しい話ですし、これが入っていた方が断然面白いと思うので、どちらか一方だけ買うなら紙の本の方がおすすめ。

Princeless- Raven: The Pirate Princess Vol. 3: Two Boys, Five Girls, and Three Love Stories

Princeless- Raven: The Pirate Princess Vol. 3: Two Boys, Five Girls, and Three Love Stories