石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

主要ネットワークでトランスがトランス役を演じる快挙。でも、肝心のお話が……―ドラマ『Doubt(原題)』1x01感想

Laverne Cox (Transgender Pioneers)

法廷ドラマというよりソープオペラ

本作品は米CBSで2017年2月15日に始まった法廷ドラマ。ラヴァーン・コックスがトランスジェンダーの弁護士役でレギュラー出演しています。米国の主要TVネットワークのドラマで、トランスの主要人物をトランスの役者が演じるのはこれが初。ただ、ドラマ自体の出来が今いちなのが残念。

まず、ラヴァーン演じるところの弁護士、キャメロン・ワースがトランスジェンダー女性であることがはっきり描かれているのは画期的だと思いました。米国のTVドラマでは、トランスジェンダーのキャラクタはケーブルやオンライン配信のドラマよりもさらに少なく、GLAADの調査によれば2016年には3人しかいなかったそうです。また、トランスジェンダーの役をトランスジェンダーの役者が演じることもまだまだ少なく、この状況を改善すべきだという声は高まる一方。ジェフリー・タンバーが『トランスペアレント』でエミー賞を受賞したとき、「ハリウッドはもっとトランスの才能を起用すべきだ、自分がトランス女性を演じた最後のシス男性になればうれしい」(大意)とスピーチで訴えたのがその好例です。そんな中、ラヴァーンが単発出演の殺され役や殺人犯役(このパターンがまた多いのよ……)などではなく、アイヴィーリーグ出の弁護士役でプライムタイムのTVドラマにレギュラー出演したというのはとても意義あることだと思うのですが。

困ったことに、それ以外の部分に見るべきものがほとんどないのよ、このドラマ。

基本的に本筋は、法廷ドラマのふりをしたチープなメロドラマ。出てくる案件は2件とも少しもひねりがなく、主要キャラたちの性格も曖昧模糊としています。冒頭の自転車の場面は主人公・セイディー(キャサリン・ハイグル)の怖い者知らずな性格を表現しようとしたのでしょうが、ケイデンスの低いママチャリ的な漕ぎ方で迫力に欠け、あたかも映画『プレミアム・ラッシュ』の劣化コピーのよう。アシスタントのアイオワ州ネタも、ドラマ『グレイズ・アナトミー』のエイプリルが故郷の農場に戻って豚の世話をしていた場面のインパクトに完全に負けています。主張の違うキャラ2人が立場を交換してロールプレイで会話する場面も、ドラマ『ワンデイ -家族のうた-』の母娘ロールプレイの軽妙さには遠く及びません。また、殺人ミステリの要素にしても、『殺人を無罪にする方法』序盤のような緊迫感はまるでなし。

米国のドラマはパイロット(シーズン1第1話)に一番力を注ぐはずなのに、ここまでどこもかしこもつかみが弱くてどうするのかと思いました。米iTunes Storeで第1話が無料だったためいそいそと見たのですが、2話以降を買うかどうか、正直考えあぐねています。