石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『ムーンライト』がオスカー作品賞受賞 LGBTQ映画で初

Moonlight - O.S.T.

日本時間で2017年2月27日、第89回アカデミー賞授賞式で、米国の黒人ゲイ少年の成長を描いた映画『ムーンライト』が作品賞に輝きました。LGBTQ映画が同賞を受賞したのは、これが史上初です。

詳細は以下。

'Moonlight' Makes Oscars History as 1st LGBTQ Best Picture Winner - NBC News

『ムーンライト』は米国フロリダ州マイアミの貧困地域を舞台に、シャロン(Chiron)という内気な少年が大人になるまでを描いた作品。Dorothy Surrendersでは、「ゲイの黒人としてアメリカで成長することについての映画であり、現代のマスキュリニティの複雑性についての映画であり、愛についての映画」と端的に形容されています。日本語での作品情報は、以下をどうぞ。

これまでにLGBTQ要素を中心に持つ映画がアカデミー賞にノミネートされてこなかったわけではありません。『フィラデルフィア』ではトム・ハンクスが、そして『ミルク』ではショーン・ペンが最優秀男優賞を獲っています。『めぐりあう時間たち』ではニコール・キッドマン、『ボーイズ・ドント・クライ』ではヒラリー・スワンクがそれぞれ主演女優賞を受賞。『イミテーション・ゲーム』は脚色賞を、『プリシラ』は衣装デザイン賞を、『ブロークバック・マウンテン』は脚本賞、監督賞、主題歌賞の3部門を受賞しました。それでも、LGBTQ映画がアカデミー作品賞の栄光に浴したことは、今までただの一度もなかったんです。

これまで作品賞にノミネートされて受賞を果たせなかったLGBTQ映画は、たとえばこのあたり。

  • 『イミテーション・ゲーム』 (2014)
  • 『ザ・キッズ・オールライト』(2010)
  • 『ミルク』(2008)
  • 『ブロークバック・マウンテン』 (2005)
  • 『めぐりあう時間たち』(2002)
  • 『蜘蛛女のキス』(1985)

それがようやくここまで来たというわけ。NBC Newsによると、LGBTQ映画史家のジェニー・オルソン(Jenni Olson)氏は、『ミルク』と『ブロークバック・マウンテン』が、どちらも作品賞こそ獲れなかったものの大きなブレイクスルーになったと述べているとのこと。

しかしながら、『ムーンライト』の作品賞受賞だけで、単純にアカデミーがLGBTQに対して寛容になったとか、多様性が実現されたとか受け取るわけにはいかないとも思います。クィアな映画に対するアカデミーの態度は、これまでずいぶんひどいものでしたしね。以下、同じくNBC Newsから引用します。

「クィアな登場人物を演じること、とりわけ最後に死んでしまうクィアな登場人物を演じることは、主演男優賞の像を手にする最良の方法だとしばしば言われてきました」とLGBTQ映画史家のジェニ・オルソンはNBC Out宛てのメールで書いている。

"It has often been noted that playing queer characters, especially queer characters who die, is one of the best ways to get a Best Actor statue," LGBTQ film historian Jenni Olson noted in an email to NBC Out.

『ミルク』のハーヴェイ・ミルクも、『フィラデルフィア』のベケットも、『めぐりあう時間たち』のヴァージニア・ウルフも、『ボーイズ・ドント・クライ』のブランドンも、そういえばみんな死んでますね。クィアなキャラが死なないときはどうだったかって?『キャロル』を思い出してくださいな。

2016年に『キャロル』がオスカーに無視されたときは、クィアたちのハートはまたしても引き裂かれた。作品賞にノミネートすらされなかったのだ。オルソンは、主要なハリウッド女優が映画の最後で死なないレズビアンの登場人物を演じるのを見る機会は稀だとして、ケイト・ブランシェットが主演女優賞を逃すのは「悲しかった」と述べている。

In 2016, queer hearts broke again as "Carol" was snubbed at the Oscars — not even receiving a nomination for Best Picture. Olson said she was "saddened" to see Cate Blanchett lose the Best Actress award, noting that it was rare to see a leading Hollywood actress portray a lesbian character who doesn't die at the end of the film.

『ムーンライト』は作品賞のみならず助演男優賞と脚色賞も受賞していますし、そもそもキャストが全員黒人の映画や、黒人監督の映画が作品賞に輝いたのもこれが初なのだそうです。そんなわけで、いろいろと画期的な受賞であったことは間違いありません。願わくばこれが、昨年沸き起こった"#oscarssowhite"(オスカーは真っ白)という批判に対処するための「トークン・マイノリティ」(『お飾りのマイノリティ』、差別的だという批判を避けるためだけに場に含められるマイノリティのこと)としての受賞ではなく、映画界全体の進歩を指し示すものであらんことを。そして、いちレズビアンとしては、最後にDorothy Surrendersのこの一文を(首がもげるほどうなずきながら)引用せざるを得ません。

おめでとう、『ムーンライト』。さあ、今度はゲイ女性の映画が同じことをするべき時だ。

Congratulations, “Moonlight.” Now, time for a gay ladies movie to do the same thing.