石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

映画『パワーレンジャー』(2017)がロシアで18禁に 理由はイエローレンジャーがレズビアン(?)だから

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米/カナダの特撮スーパーヒーロー映画『パワーレンジャー』(2017)が、ロシアで18禁指定を受けました。原因は、メインキャラのひとり、トリニー/イエローレンジャーが女の子を、つまり同性を好きらしいと示唆する場面があるから。

詳細は以下。

'Power Rangers' Gets Strict Age Restriction in Russia, Presumably Over LGBTQ Character | Hollywood Reporter

この映画は、日本のスーパー戦隊ものを英語圏向けにローカライズしたテレビドラマ『パワーレンジャー』シリーズの劇場版リブート。監督はディーン・イズラライト(Dean Israelite)で、IMDbによれば、公開日は米国で2017年3月24日、ロシアで同3月23日、日本で同7月15日です。

本作品には、ベッキー・ジー(Becky G)演じるところのキャラ、トリニー/イエローレンジャーが異性愛者ではないらしいことが示される場面が出てくるのだそうです。それが気に入らなかったのが、ロシアのあの「同性愛プロパガンダ禁止法」(未成年に対する『同性愛の宣伝』を違法とする法律)を起草したビタリ・モロノフ(Vitaly Milonov)議員。彼は3月23日、つまりロシアでの『パワーレンジャーズ』封切り日に、同国の保守派TVネットワークでこの映画をテロリストが爆弾を仕掛けた子供向けおもちゃになぞらえ、ロシアでは禁止すべきものだと主張したのだそうです。他に、アレクセイ・ジュラフリョフ(Alexei Zhuravlev)議員も、『パワーレンジャーズ』に公開許可を出した文化省を批判。翌日には配給元から、当初16歳未満禁止だったレイティングを18歳未満禁止にするという発表がなされました。

ただ、これ、そこまで大騒ぎして子供の目から隠さなければならないような描写かというと、どうもそうではなさそうなんですよねえ。ロシアで3月23日の時点で(つまり、レイティング変更前に)この映画を観た人は、Hollywood Reporterの取材に対し、「(トリニーは)かっこいいから、同性愛者でもそうじゃなくても気にしない」(アナスタシアさん、18歳)、「どのみちかなりのアホ映画だからトリニーが何であろうとどうでもいい」(ニコライさん、26歳)などと話しているとのこと。また、先ほどRotten Tomatoes経由でトップ批評家による本作品のレビュー計20本にざっと目を通してみたところ、半分ぐらいがそもそもトリニーのセクシュアリティの描写について言及しておらず、言及がある場合でも、その場面の時間が短いとか、描き方が臆病だとか、ほのめかしはあっても断言はないとかいった評価がほとんどでした。セクシュアリティの要素が「旧作では一度も描かれなかった新たな一面をキャラクタに付け加えている」と好意的に評価しているレビューでも、このシーンは「とても素早く、かすめるようにして終わってしまう」と説明されています。結局のところ、先日の『美女と野獣』(2017)と同じで、そこまで大げさに騒ぐほどのものではないのでは。

なおイズラライト監督は、3月20日付のHollywood Reporterの記事の中で、トリニーの性的指向にまつわるシーンについて下のように語っています。

「トリニーは自分がどんな人間なのかについて本当に悩んでいるんです」とイズラライトはハリウッド・レポーターに話した。「彼女はまだ自分のことが全部はわかっていないんですよ。わたしの考えでは、そのシーンですばらしいのは、そしてそのシーンが映画のそれ以外の部分を前に推し進めているのは、『それでいいんだ』という要素です。この映画は、『それでいいんだ』と言ってるんです。子供はみんな、本当の自分を持ち、自分の仲間を見つけなければなりません」

For Trini, really she's questioning a lot about who she is," Israelite tells The Hollywood Reporter. "She hasn't fully figured it out yet. I think what's great about that scene and what that scene propels for the rest of the movie is, 'That's OK.' The movie is saying, 'That's OK,' and all of the kids have to own who they are and find their tribe."

たとえ「とても素早く、かすめるようにして」終わってしまう短いシーンでも、「それでいいんだ」というメッセージは子供にとって大切なものなので、せめて当初の16禁のレイティングで公開してほしかったです。ちなみにロシアのレイティングで18禁というと、『キャロル』と同じ枠。何もかもおかしすぎる。