石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

よくぞここまで軌道修正―ドラマ『オーファン・ブラック 暴走遺伝子』シーズン4感想

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話の枝葉をみごとに整理

タチアナ・マズラニーが10人以上のクローン姉妹(レズビアン含む)を演じるスリリングなSFドラマ。迷走気味だったS3から一転、話の枝葉がうまく刈り込まれているし、手ごわい敵も驚きの展開もあり、よくぞここまで軌道修正したものだと拍手を送りたくなりました。

対立軸が明確に

このS4でうまいなと思ったのは、主人公たちと敵対する組織・ネオリューションの中に「クローン派VSボット派」という新たな対立軸を設けることで、複数のヴィランの立場やドラマ上の欲求をわかりやすくしたこと。このあたりの構成は、次から次へと謎の陰謀をほのめかしたあげく説明台詞で強引にまとめて終わった前シーズンより格段によくなっています。また、今シーズンでのこのボットという技術のおぞましさは、やりすぎ感もある反面、新たな悪役・エヴィ(ジェサリン・ウォンリム)の邪悪さや恐ろしさを印象づけることに成功してもいると思いました。ロボットの「ボット」じゃないのよ、これ。YouTubeで"bot fly"で検索すれば何のことだか一発でわかるはずですが、サムネイルですら嫌悪感をもよおす人が多いと思うので、おすすめはしません。ともかく、この新技術をお話の新たな駆動力とし、ネオリューション内の派閥争いを明確に打ち出したのは正解だったと思います。

レズビアン・ロマンスの行方

S3の結末でデルフィーヌ(エブリンヌ・ブロシュ)を襲ったクリフハンガー展開の行き着く先が多少なりとも示されるのは、なんとS4(全10話)第7話まで話が進んでから。そこでの暗示がある程度確定的になるのは、第9話のラストシーンからです。穿った見方をするならば、「コシマとデルフィーヌの同性カップルのファンたちの視聴率目当てで、そこまで鼻先にニンジンをぶらさげ続けた」という解釈も可能かもしれません。ただし、「結局あの時デルフィーヌに起こったことの黒幕は誰だったのか」という謎が今シーズン全体の謎と直結しているため、シーズンフィナーレまで見た時点ではもうこの構成に納得するよりほかありませんでした。もしS4E1の時点で「実はあのときこうなってました」と全部明かしたら、3話ぐらいでシーズン4が終わっちゃうもんね。やっぱり構成がうまいわ、このシーズン。

接点がほとんどないこともあり、今シーズンでのコシマとデルフィーヌの相互交流は比較的薄口です。が、前シーズンのいまいちなシナリオでの三角関係より、今シーズンでの傷心のコシマの表情の方が、女性同士のラブロマンスとしてよっぽど力強かったことは確か。少なくとも最終シーズンであるシーズン5までの希望もつながったし、あたしとしては特に不満はないですね。

気になったところ

前述のボットの描写にも通じる話なのですが、ちょっと安直なグロ描写が多すぎる気がします。たとえば妊婦の〇〇、白鳥の〇〇、〇〇の赤ちゃん、そして眼球に〇を〇〇場面など、画面を必要以上にショッキングにしようとしているかのような印象を受けました。残酷描写そのものがいけないとは露ほども思いませんが(『スキャナーズ』の頭部爆発も『オーメン』の首チョンパも、『レヴェナント:蘇りし者』でトム・ハーディの指がああなるシーンも別にいいと思うの)、「とりあえず視覚的にどぎつくしておけば視聴者は驚くだろ」的なチープさは話の興趣を削ぐと思います。エグい描写を入れるなら入れるで、『ブレイキング・バッド』のラズベリー・スラッシー製造過程に負けないぐらいインパクトのある文脈を用意して、もっと凄みのある見せ方にしてほしいところ。

もう一つ気になったのが、Netflixの字幕翻訳の質の低さです。『オーファン・ブラック』の日本語DVDはシーズン2までしか出ておらず、それ以降のシーズンを日本語で見るには目下Netflixに頼るしかないのですが、このS4はどうも翻訳の質がよくない気がします。原語で"lesbian"と言っているところを逐一「レズ」と訳す鈍感さや(これって英語で"black"と言っているのを全部『ク〇ンボ』と訳すようなものですよ)、ことわざを直訳して日本語として意味が通らない台詞にしてしまっているところ、固有名詞の"Batcave"(バットケイヴ、バットマンの秘密基地のこと)をなぜか「コウモリの巣」としてせっかくのジョークを台無しにしているところ(コミック店の地下だからこそ『バットマンの』秘密基地だとふざける場面のはずなんですよ)など、素人目で見てもどうかと思いました。Netflixにはもう少しローカライゼーションにお金をかけてほしいなあ。その分使用料が上がってもいいから。

その他

  • 話がだいぶ複雑化してきた今、改めてサラ(タチアナ・マズラニー)を中心に据えて物語を進めていったのはよかったと思います。おかげで新たなLEDAクローンのキャラを動かす余地もできてましたしね。ただその分ヘレナ(タチアナ・マズラニー)の出番が少なかったのはちょっと残念でしたが、これはその分シーズン5でヘレナ中心のエピソードが出てくるということなのか?
  • アリソン(タチアナ・マズラニー)とドニー(クリスチャン・ブルーン)のヘンドリクス夫妻は今回も最高でした。これだけ登場人物が多いタイトなシナリオの中、アリソンのミュージカルシーンもドニーの笑わせどころもちゃんと盛り込んであるのがすごい。
  • 前シーズンではちょい役にも見えたクリスタル(タチアナ・マズラニー)のキャラクター造形がどんどん深くなっていくところもよかった。タチアナの天才的演技に加え、メイクや衣装の芸の細かさが楽しかったです。

まとめ

半ば「ファイナル・シーズンであるシーズン5に追いつくため」という義務感で見始めたシーズンでしたが、終わって見れば「面白かった」の一言でした。謎の陰謀の大安売りでわけがわからなくなりかけていたストーリーをよくぞここまで整理し、求心力を取り戻したものだと思います。デルフィーヌがらみのストーリーラインも、なんだかんだ言ってよかった。本国では今、シーズン5の最終話が終わった(2017年8月12日放映)ばかりなんですが、こうなってみると最後まで見てこのドラマにさよならをしなければならないのがつらいなあ。でも続きが気になるから、もう北米版ブルーレイ(2017年9月14日発売)買って一気に見ちゃおうかなあ。

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