石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

米同性婚訴訟原告イーディス(イーディー)・ウィンザーさん死去

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同性婚を認めない「結婚防衛法」は違憲と米連邦最高裁に認めさせた「ウィンザー対アメリカ合衆国」裁判の原告、イーディス(イーディー)・ウィンザー(Edith Windsor)さんが2017年9月12日にマンハッタンで亡くなりました。88歳でした。

詳細は以下。

Edith Windsor, Whose Same-Sex Marriage Fight Led to Landmark Ruling, Dies at 88 - The New York Times

ウィンザーさんが結婚防衛法は違憲として訴えるに至ったいきさつは、以前、なぜ今同性婚訴訟なのか(1):イーディスとシーアの物語 - みやきち日記で書きました。以下、そこから引用します。

イーディス・ウィンザーさんが同性パートナーのシーア・スパイアさんと出会ったのは、1963年のニューヨーク。「ポルトフィーノ」というレストランでのことでした。イーディスさんはニューヨーク大学でコンピュータ・プログラミングを研究しており、IBMに入社が決まっていました。シーアさんは精神分析医。

1967年に、シーアさんはイーディスさんにプロポーズします。結婚指輪ではなく、ダイヤモンドのピンを贈ったそうです。なぜか? 周囲の注意をひきたくなかったから。

それから10年後、シーアさんが中枢神経系の難病である多発性硬化症と診断されたことで、ふたりの運命は大きく変わっていきます。パートナーの看病のため、イーディスさんは収入のいい仕事をやめなければなりませんでした。2007年、すでに四肢麻痺を起こしていたシーアさんは、あと1年の命と宣告されます。シーアさんはふたたびイーディスさんにプロポーズし、ふたりはカナダに引っ越しました。結婚防衛法のため、米国内では結婚できないからです。米国では、たとえ同性婚を法制化している州で結婚したところで、国からは婚姻とはみなされません。

ふたりはカナダで結婚し、2009年にシーアさんが亡くなるまで、法的な既婚者としてそこで暮らしました。シーアさんが亡くなって1ヶ月後、イーディスさんは心臓発作を起こします。幸い命は取りとめたものの、そこに追い討ちをかけるようにして、大きな問題が襲いかかりました。相続税です。

米国の連邦法では、ふたりはあくまで「他人」。異性同士の既婚カップルなら1セントもとられない相続税を、イーディスさんは36万3千ドル(約3430万円)も請求されたんでした。42年間の愛も、難病のパートナーを支え続けた献身も、ジェンダーが同じだというだけで無視されてしまうわけです。カナダで法律婚していたって、ダメなんです。

この、同性カップルだけにのしかかる相続税のことを"gay tax"(ゲイの税金)って言うんですよ。ゲイだけが払わされる税金。スーザン・ソンタグが亡くなったとき、パートナーのアニー・リーボヴィッツが、ソンタグが残した巨額の財産の50パーセント分の相続税をとられるということでずいぶん話題になりました。これだって、もしふたりが異性同士の既婚カップルなら、1セントも払わなくてよかったんです。

ちなみに米国大使館の日本語サイトによると、合衆国憲法修正第5条にはこうあります(強調は引用者によります)。

修正第5条 [大陪審、二重の危険、適正な法の過程、財産権の保障] [1791 年成立]

何人も、大陪審による告発または正式起訴によるのでなければ、死刑を科しうる罪その他の破廉恥罪に つき公訴を提起されることは無い。但し、陸海軍内で発生した事件、または、戦争もしくは公共の危機に 際し現に軍務に従事する民兵団の中で発生した事件については、この限りでない。何人も、同一の犯罪に ついて、重ねて生命または身体の危険にさらされることはない。何人も、刑事事件において、自己に不利 な証人となることを強制されない。何人も、法の適正な過程*によらずに、生命、自由または財産を奪われることはない。何人も、正当な補償なしに、私有財産を公共の用のために収用されることはない。

*原文のdue process of law(デュー・プロセス・オブ・ロー)の訳。適正な手続のみならず法の適正な内容も要求 するところからこのように訳される。

結婚防衛法はこの修正第5条に反するものであるというのがイーディス・ウィンザーさんの主張です。

このふたりがどんなカップルだったかは、こちらをごらんください。若き日のラブラブっぷりも出てきますよ。この人たちをこんな目に遭わせておいていいのか? それを争うのが、今回の裁判なんです。


2013年6月26日、連邦最高裁は結婚防衛法は自由・財産を保障した憲法修正第5条に違反するとの判断を示し、この判断は判事9人のうち5人によって支持されました。ウィンザーさんはその後もアクティヴィストとして活躍し、2016年には新パートナーのジュディス・ケイセン(Judith Kasen)さんと再婚。今回ウィンザーさんの死去を病院で確認したのは、このケイセンさんです。死因などの詳細は、明らかにされていません。

米国のLGBTセレブからのお悔やみのことばを、以下にいくつか貼っておきます。

ウィンザーさんの勝訴後、連邦最高裁は2015年に全米での同性婚を認めました。ちなみに2017年4月にJAMA Pediatricsで発表されたこちらの研究では、米国で同性婚が可能になった州ではそれ以前に比べ性的マイノリティのハイスクール生の自殺企図が有意に減少しており、同性婚政策の変化が若者たちのスティグマ減少に役立っている可能性があると指摘されています。つまり、「ウィンザー対アメリカ合衆国」裁判は、同性カップルの自由と財産だけでなく、全米の子供たちの命を守ることにもつながっていたわけ。お疲れ様でした、そしてありがとう、ウィンザーさん。どうぞ安らかに憩われますよう。