石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

お嫁サンバでも歌っとけ〜映画『ラブソングに乾杯』感想(ネタバレ)

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煮え切らない女のホモソーシャル的悶々ストーリー

Netflixで鑑賞。ヘテロフレキシブル*1な察してちゃんの既婚女性が、はずみで関係を持った女友達相手に未練がましく悶々とし続ける話。結末の叙情は悪くないんだけど、主人公の魅力が薄く、プロットも平坦過ぎ。

察してちゃんなサラ

この映画のあらすじは、「不在がちな夫との関係がうまくいかず、幼い娘と2人きりの生活に閉塞感をおぼえていたサラ(ライリー・キーオ)は、気晴らしに出かけた小旅行先で、大学時代の親友ミンディ(ジェナ・マローン)とはからずも深い仲になる。夫と別れる気もなく、この体験を『大したことじゃない』と言うサラを見て、ミンディは傷つき、去る。しかし3年後、ミンディが結婚することになり……」というもの。これだけならそう悪くもなさそうなんだけど、問題はこのサラがとことん受け身なキャラで、何かにつけ「みじめな顔をしてじーっと視線を送っていればおやつがもらえるかもと思っている犬」みたいに振舞っているということ。しかもそれが最後まで延々と続き、何の成長もないのよ。およそ女性を愛する女性の物語で、ここまで一本調子な察してちゃんのままでい続けるというキャラは初めて見た気がします。斬新と言えば斬新だけど、映画としては退屈きわまりなかったわ。

ライリー・キーオの演技はよかったと思うんです。ミンディがいきなりニューヨーク行きのバスチケットを買って帰って行ってしまう場面での細かな表情変化など、何度も見直してしまったぐらい。問題は、キャラの意外な側面なり課題の克服なりをろくろく用意できなかったストーリーラインにあります。あと、色彩と構図があちこちかなり安っぽく見えてしまうところもよくなかったのでは。映画前半での子供の描写は素人作のホームビデオみたいなところがあったし、サラの憂鬱を黒雲で、開放感を光と風を浴びる髪で表すという対比なども、紋切り型すぎて低予算のテレビドラマみたいだと思いました。もちょっと繊細な画面作りをしてくれたら、もうすこし含みのある話に見えたかも。

ラブというよりホモソーシャルな欲望

この映画は女性同士のロマンスというよりホモソーシャルな欲望または関係を描いたものだと思います。というのは、サラがミンディに急速に接近するのは、いつでも男がらみのシチューションだから。序盤でミンディがロデオカウボーイと仲良くするのをサラが邪魔する場面なんかもそうですが、決定的なのは、2人が初セックスに至る直前の会話です。モーテルで深夜酒を飲みながら交わされるこの会話の話題は、ほとんど男とのセックスに関するものばかり。夫の性欲が強いとか、毎週土曜日は夫が決めたアナルセックスの日だとか、大学時代に2人で男を連れ込んだときの話とか、とにかく「男、男、男」。それでしまいに悪酔いしたサラをミンディが慰めているうち、なしくずしにキスから肉体関係にまで至ってしまうという流れになっていて、これってまるで「男2人で女とのエロ体験を語り合っているうちに興奮して、『一緒にシコろーぜ』と相互オナニーを始めてしまった」みたいな状況だと思いました。ちなみにこの映画、サラとミンディのセックス描写はいわゆる「朝チュン」でしかなく、2人が男がらみの性的な話をする場面の方によっぽど長い時間が割かれています。

セジウィックは『男たちの間ーー英文学と男性間のホモソーシャルな欲望』で、女性(とのヘテロセクシュアルな関係)を介在させることで理解される男性対男性の欲望を「ホモソーシャル」と形容しました。サラからミンディへの欲望は、この女性版であるように見えます。それが証拠に、このセックスの後ミンディに去られたサラは、それから丸3年間彼女に連絡もせず、ようやく会うのはミンディの(男性との)結婚が決まってからです。映画内ではこの間の描写がすっ飛んでいて、いきなりテロップで「3年後」と入るため、初見時には「映画版『地球へ…』かよ!? この間何してたんだよ!」とのけぞってしまいました。しかし、全部見通した今ならわかる。ミンディに男とのヘテロセクシュアルな関係が浮上したからこそ、サラはここで今さら再接近を図ったんだわ。サラのミンディへの欲望は、男という媒介物がなければ形をとれないものだったから。

サラが積極的に夫と別れるでもミンディを口説くでもなく、パセティックな困り顔でウロウロすることしかできないのは、結局のところ彼女にはミンディと一対一のリレーションシップを持つことができないから。もしこれが「惚れた」女が結婚するのが嫌だというラブロマンスであったならば『四角い恋愛関係』のような方向性だってありえたわけですが、そんなわけでこのお話はドカンとではなくメソメソと収束していくのみです。「ああもう辛気臭え、長々と被害者ぶってないで『お嫁サンバ』でも歌って済ましとけ」と、短気なわたくしとしては思いました。ホモソーシャリティー(のようなもの)をテーマにすること自体は別にいいし、ラストシーンもあれで正解だとは思うんだけど、あまりに話に起伏がなさすぎるんだもん。ロマンス的に盛り上げようがない分だけ、何かもうひとつひねりが欲しかった。

キャストは皆よかったです。

前述のライリー・キーオ(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のケイパブルの人ですね)のみならず、ミンディ役のジェナ・マローンも生き生きした演技がよかったし、脇を固めるロザンヌ・アークエットやブルックリン・デッカーの存在感も大変すばらしかったです。それだけに、全体的なストーリーののっぺり具合が余計に悲しくなってきます。なんでこんなことになってしまったのか。

まとめ

これだけの女優さんを集めてなぜこんなことになっちゃったのかよくわからない映画です。煮え切らない女性のホモソーシャル的うだうだを撮ること自体が狙いだったのなら大成功と言えるかもしれませんが、物語として退屈でした。女同士の恋とも友情とも分類し切れぬ心のつながりが見たいのなら『フライド・グリーン・トマト』を、「ひそかに心寄せていた親友が結婚しちゃう、どうしよう!」というドラマが見たいのなら『マイ・ベスト・フレンズ・ウエディング』を、その親友が主人公と同性同士であるというラブロマンスを見たいのなら『四角い恋愛関係』を見たほうがいいと思います。

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