石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

闘争でも逃走でもない解決法~ドラマ『スーパーガール』S3E13 "Both Sides Now"感想

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ワールドキラー覚醒。手こずるアレックス

ジュリア/ピュアリティ(クリス・マーシャル)がワールドキラーとして覚醒し、アレックス(カイラー・リー)の弱みを看破。しかし、カーラ(メリッサ・ベノイスト)とのシスターフッドがアレックスを助ける。一方レナ(ケイティ・マクグラス)はサム/レイン(オデット・アナブル)の人格交代を目撃し、治せると考えるが……。着々と話が進む回で、ロマンスは少なめ。

「fight or flight(戦うか逃げるか)」より「tend and befriend(思いやりと絆)」

DEOに捕獲されたジュリア/ピュアリティの尋問で、アレックスが以前人差し指一本でウィンを脅しつけたとき(S2E7)のような凄みのある啖呵を切りまくっています。しかしそのやり方ではうまくいかず、結局カーラの推す思いやりと絆重視の方針が打開策となるところが面白いと思いました。これって、困難への対処にあたっては、古典的かつ男性的な「fight or flight(戦うか逃げるか)」反応より、女性の行動特性だといわれる「tend and befriend(『思いやりと絆』、あるいは『世話と友情』)」反応の方が時として有用であるということを表しているのでは。

Taylor, et al(2000)*1は動物実験やヒトの研究をもとに、ストレスフルな状況下で戦ったり逃走したりする「fight or flight(戦うか逃げるか)」反応は女性より男性に優位なものだと述べました。Taylorによれば、女性の場合、ストレス下では子をケアしたり、社会的集団の結束を強めたりする「tend and befriend(『思いやりと絆』、あるいは『世話と友情』)」反応が優位になるんだそうです。この「tend and befriend」反応はラットやサルなどの雌にも見られるもので、脆弱性の軽減、援助やリソースの交換などに寄与しているほか、同種の雄による攻撃から女性と子供を守るメカニズムとして機能している可能性もあるんだとか。これってちょっと『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のフュリオサやワイブズ、鉄馬の女たちの結束を思わせますね。彼女たちは戦いもすれば逃走もしたけれど、行動の根底にあるのは弱いものの保護と女性同士のネットワークでしたから。

思うに『スーパーガール』S3でルビー(エマ・トレンブレイ)という12歳の新キャラを出したり、ルビーへの愛情が女性キャラたちの連帯を強めるさまを描いたり、アレックスの育児願望を出したりしたのも、すべてこの「tend and befriend」の力と可能性を強調するためだったのでは。以前から『スーパーガール』に対する批判として、「もう『女の子も男と同じことができる! 悪者をボコボコにできる!』みたいな主張はおなかいっぱい」みたいな意見をときどき見かけました。別に本作だけではなく、たとえばミシェル・ロドリゲス主演の一連のアクション映画なども、そのような批判はされてきていると思います。で、確かにそれらの批判には一理あると思うんです。ヒロインに伝統的に男性的とされてきた戦い方をただなぞらせただけでは、「男性の基準やありかたに合わせることこそが望ましい」と言っているのと同じで、それって一種の同化主義ですから。ならば男性の行動原理とはまた違うやり方で困難を突破するヒロイン(たち)を描こう、という観点で生まれてきたのが、このS3のストーリーラインなんじゃないかな。

その他

  • いくら「思いやりと絆(または世話と友情)」重視の回だと言っても、戦闘シーンも迫力満点でよかったです。ピュアリティが地下鉄駅で見せる破壊力や、本格的なボディスラムの動きなど、斬新だったと思います。Taylorも書いてるけど、女性にだってもちろん攻撃性はあるのよ。ただ、攻撃が常に最善の問題解決法だとは限らないっていうだけで。
  • 今回の話の後、シーズン3の放映・配信はふたたび小休止(hiatus)に入り、続きは2018年4月16日からとなります。それにしては小休止後まで話を引っ張りそうな強烈な伏線は特になかったので、再開後の視聴率がちょっと心配。シーズン更新は大丈夫なんだろうか。
  • レズビアン・ロマンスの要素は今回も希薄で、アレックスからマギーへの未練が少し出てくるだけです。それはそれでリアルだし共感もできるんだけど、ちょっと食い足りない印象も。

まとめ

ミッドシーズンのフィナーレとしてはこぢんまりした回でしたが、アレックスの行動を通して女性同士の「思いやりと絆」の持つパワーが示唆されているところはよかったと思います。4月からの残り10話でシーズン全体のクライマックスが無事盛り上がって、ドラマがS4まで継続されますように。

*1:Taylor, S. E., Klein, L. C., Lewis, B.P., et al. (2000). Biobehavioral responses to stress in females:Tend―and―befriend, not fight―or―flight. Psychological Review, 107, 411-429.