石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

同性愛者は葬儀お断り。実話を基にしたCM

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パン屋がゲイのウエディングケーキの注文を断るのは違法かどうかが連邦最高裁で争われている米国で、LGBT権利擁護団体が、葬儀場で起こった実話に基づくCMをリリースしました。こんなことを合法としていいのかと、このCMは問いかけています。

詳細は以下。

Heartbreaking ad with lesbian widow turned away by a funeral home is based on a true story / LGBTQ Nation

CMはこちら。

このCMはLGBT権利擁護団の Movement Advancement Project (MAP)らが始めた、Open to Allキャンペーンの一環として作られたものだそうです。英語のナレーションが入っていますが、聞かなくても意味はわかるはず。動画冒頭ではまず、悲しそうな顔の女性が胸にアルバムを抱え、家族とおぼしき人々に支えられながら葬儀場に入っていくところが映し出されます。葬儀場の職員は、親切そうな微笑みを浮かべて彼女らを出迎えます。しかし、葬儀の打ち合わせのために女性が故人との同性同士の結婚写真を見せたとたん、職員の態度はいきなり硬化。女性らは全員、その場から追い出されてしまいます。同性愛者の葬儀などお断りだというわけ。

洒落にならないのは、これは2016年に米国ミシシッピ州のピカユーン葬儀場で実際に起こった事件を基にしたCMだということ。この葬儀場はゲイ男性のJack Zawadskiさん(86)に対し、彼が52年間連れ添った夫Robert Huskeyさんの葬儀を、ゲイだからという理由で断ったんです。このためZawadskiさんは、夫のなきがらを約100マイル離れた別の葬儀場まで運ぶことを余儀なくされています。

上記のCMについて、MAPのIneke Mushovic事務局長は以下のように説明しています。

「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、そしてトランスジェンダーの人々は、日常的に差別に遭うリスクにさらされ続けています。愛する人を埋葬するときのような、もっともつらいときであってもです。人はこのような差別が起こるはずはないと考えるものですが、実際には起こるし、過去には本当に起こっています。そしてこのCMは、連邦最高裁が差別を支持した場合、それが状況をどのように悪化させるのかを示しているのです」と、MAPのIneke Mushovic事務局長は言った。「もしマスターピースの(訳注:同性カップルのウエディングケーキ注文を断るのは合法だとして連邦最高裁で争っているコロラド州のパン屋、『マスターピース・ケーキショップ』のこと)の訴訟が合衆国じゅうのビジネスに差別のライセンスを与えれば、葬儀場や、医院や、レストランや、もっとたくさんのものが、単にその人の本来の姿を理由として、合法的に顧客を追い返すことが可能になるでしょう」

“Lesbian, gay, bisexual, and transgender people continue to be at risk for discrimination in their daily lives, even at their most painful moments, like when burying a loved one. People think discrimination like this couldn’t happen, but it does and it did—and this ad explains how a decision by the Supreme Court in favor of discrimination could make matters worse,” said Ineke Mushovic, executive director of MAP. “If the Masterpiece case gives businesses across the U.S. a license to discriminate, funeral homes, doctor’s offices, restaurants and more could legally turn away customers simply because of who they are.”

そう、パン屋と葬儀場だけでなく、生活のあらゆる局面で、同性愛者への差別はもう既に起こってるんですよね。以下、石壁に百合の花咲くみやきち日記で紹介してきた実例をいくつか挙げてみます。全部米国での話です。

こんなの氷山の一角で、英語でGoogle検索すればもっとたくさんの事例が出てきますよ。問題は、こうした排除を合法とするかどうかです。もしもコロラド州のパン屋による、「自分が同性愛者にケーキを売らない自由は合衆国憲法修正第1条(議会が宗教・言論・集会・請願の自由に干渉することを禁止した条項)によって認められる」という主張を連邦最高裁が支持したなら、ゲイはもうピザ一枚注文するにもいちいち「同性愛者可」の店かどうかを確かめなければならなくなるかもしれません。レストランで食事するにも、そこに行くタクシーに乗るにも、まるで転居時にペット可物件を探し回る人のようにして「同性愛者可」のものを探さねばならず、それが死ぬまで――いや、最後に息を引き取る病院でも、死んでからの葬儀でも続くだなんて、悪夢でしょ。

日本ではこの手のウエディングケーキの訴訟のニュースに対して、わりとお気軽に「店にも客を選ぶ自由が」だの「棲み分ければいい」だのと発言する人を見かける印象がありますが、これってそんな簡単な話じゃないのよ。今既に米国のそこらじゅうで起こっているゲイへのサービス提供拒否を、連邦レベルで裁判所が合法とするか否かの問題なのよ。性的指向が原因で配偶者の葬儀ができず、愛する人のなきがらを100マイル搬送させられるなんてことが絶対にない(そして、米国の同性愛者がそんな目に遭っていることすら知らない)異性愛者が、のんきに「選ぶ自由がー」とか言ってんじゃねえやと、あらためて思ったりしました。