石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

女性カップルの扱いが秀逸~映画『ラフ・ナイト 史上最悪!?の独身さよならパーティー』感想

ラフ・ナイト 史上最悪! ?の独身さよならパーティー [DVD]

女性を愛する女性キャラがリアル。扱いもフェア

独身さよならパーティーで思わぬ事件に巻き込まれた女たちの奮闘を描くお下劣コメディ。メインキャラの中に元カップルの女性たちがいて、彼女たちの描写がリアルかつフェアでした。アホ映画でありつつ伏線が緻密で、最後まで先が読めないところもよかった。

ほんとにそのへんにいそうなL&Bキャラ

この映画のあらすじは、「恋人ピーターとの結婚を控えたジェス(スカーレット・ヨハンソン)は、大学時代の親友4人とともにマイアミでバチェロレッテ・パーティー(独身さよならパーティー)を開く。ところが、パーティーに呼んだ男性ストリッパーが思わぬアクシデントで急死してしまう。ジェスは州上院選に立候補中の新進政治家で、今スキャンダルを起こすわけにはいかない。5人は死体を隠そうと奔走するが、立て続けに予想外の事態が発生し……」というもの。この主人公の親友4人のうち、フランキー(イラナ・グレイザー)とブレア(ゾーイ・クラヴィッツ)が大学時代恋人同士だったという設定になっています。

作中で明言はされていないもののたぶんフランキーはレズビアンで、ブレアはバイセクシュアル。で、このふたりの描写が本当によくできているんですよ。まず、大学時代バカップルだった彼女らが、今はもう別れてしまっていて、でも友達としてつきあいを続けているという設定のリアルさがいいです。こういうのって女性が好きな女性のコミュニティではよくあることですからね。クィア女性のコミュニティは狭いため、恋が終わるたびにいちいち絶縁していたら友達がいなくなってしまうし、そもそもレズビアンやバイセクシュアルの間では、ヘテロ文化における「自分の恋愛対象となるジェンダーの人とは、恋愛目的でしか親密な関係は作れない(『男と女の間に友情は不可能』とかいう例のアレ)」みたいな発想はほとんど支持されていなかったりします。そのあたりの事情がよくわかっている人が書いたシナリオだなと思いました。

フランキーとブレアの服装や価値観、行動パターンなどがいかにもそのへんにいそうなレズビアン/バイセクシュアルなところもよかった。特にフランキーの台詞がいいんですよ。ブレアを連れションに誘った後、理由を聞かれて「これって女子がいつもやってるヘテロノーマティブなことでしょ("It's a heteronormative thing that girls do.")」なんて言ったり、ある男性の特徴を説明するのに開口一番「シス男性で……("Cis male...")」と切り出したりするあたり、超レズビアンっぽくて笑いました。あるキャラがレズビアンであることを表現するのに、「とにかく女相手の恋愛やセックスをさせる」以外に何ひとつできない創作物も少なくない中、この映画のそれはずいぶん気が利いてると思います。ちなみにフランキーとブレアがカップルとして画面に登場する場面も、彼女らが「女女カップル=男の目を喜ばせるエロいオブジェクト」的な文脈で無意味にセクシャライズされることはまったくなく、安心して見ることができました。

ブレアのバイセクシュアリティーの表現もよかったと思います。ある事情のもと、ブレアがセクシーな隣人夫妻(タイ・バーレル&デミ・ムーア)とのスリーサムに挑むという展開は、一歩間違えばバイセクシュアルは「淫乱」だとか、「男と女の二股をかけないと満足できない」とかいう偏見をなぞるものにもなりかねなかったと思うんですが、これがまた全然そうなってないんですよ。撮り方が少しもポルノ的ではないこと、ここで「淫乱」役としてパンチラインを作っているのはブレアではなく隣人夫妻であること、メインキャラたちが全員、ブレアの両性愛を当たり前のことだと思っていること、などがうまく機能していると思います。

ただのアホ映画じゃありません

冒頭10分ぐらいで既にあきれかえるほど多くのお下劣ギャグが飛び交っており、「ここまでしょっぱなから『何も考えずに見られるアホ映画ですよ』と宣言するとはなんと爽やかな」と思ったんですが、実はそんな風に思ったあたしこそがアホでした。これはアホ映画であり、チック・ムービーであると同時に、入念かつ緻密に伏線を張り巡らしたサスペンス映画でもあるんです。話にひねりがきかせてあって全然先が読めないし、中だるみもなくきっちり盛り上がるし、最後の最後まで観客を驚かせ楽しませようという工夫にあふれていて、よくできたジェットコースターに振り回されるかのような面白さが味わえる作品でした。二度目の鑑賞で、実は男性ストリッパーの死までの時点でこれでもかというほど伏線が仕掛けられていたことを確認し、改めて脱帽。これが日本では劇場公開されなかっただなんて、なんてもったいない。

キャスティングもよかったと思います。主人公が脱毛テープ(!)を武器に悪漢と戦う場面など、あのブラック・ウィドウのスカーレット・ヨハンソンが大真面目にやるからこそ余計に面白いんだし、トリックスターのオーストラリア人、ピッパのケイト・マッキノンもはまり役でした。

まとめ

単なる下ネタ満載のギャグ作品かと思ったのに、そしてそれでも全然よかったのに、レズビアンキャラとバイセクシュアルキャラの描き方が絶妙だわ、サスペンス・アクションとしてもよくできているわで、三倍ぐらい得した気分になれる映画でした。本作品のルシア・アニエロ監督がプロデュースしているTVシリーズ『ブロード・シティ』がクィア描写のよさで評判だということは聞き及んでいたのですが、これを機にそちらも見てみようかと思っています。

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