石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

面白いんだけど、トランスの回が雑~Netflix版リブート『クィア・アイ』シーズン2感想

Tan France: Love, Family, Queer Eye, and What I Wore

面白いけど、改善の余地も

ゲイの5人組「ファブ5」が依頼者をステキに改造するリアリティ番組のS2。ゲイたちが優しく厳しく依頼人を助け、「セクシー」に変えていくところが相変わらず楽しいです。でも、シリーズ初登場となるトランス男性の回にはいくつか問題があると思いました。

優しく厳しくコラボレーション

まずS1同様、ファブ5がクライアントを一方的に矯正するのではなく、かといってお客様扱いでちやほやするでもなく、対等な立場で親身になってプランを進めていくところがよかったです。ヘアスタイルとグルーミング担当のゲイ、ジョナサンがいみじくも第5話で(※以下、キャラの台詞の日本語訳はすべてみやきちによります)、

「『この人の外見をこうしなくっちゃ』みたいな自分の考えを押し付けるのは本当にイヤ。(依頼人との)コラボレーションにしたいのよ」

I really shy away from imparting what I believe has to happen on someone's look. I really like it to be a collaboration.

と言ってるんですが、ジョナサンのみならず番組全体の基本方針がこれなのだと思いました。

ジョナサンがヘアカラーの変更ひとつとっても優しい言葉で段階を踏んで提案し、「一緒に『マグノリアの花たち』しましょ、きっと楽しいわ("We're gonna have a Steel Magnolias moment. It'll be fun.")」と相手を笑わせていたり、インテリア担当のボビーが依頼人のボロボロの靴を思わぬ形で活かしたりしているのは、すべてこの番組の根本が「コラボレーション」にあるからでしょう。ファブ5はけっこう厳しいことも言うんですが、そこでも頭ごなしにダメ出しをするというより、質問して自分で答えを出してもらうというパターンが多いように感じました。たとえば、息子がゲイだと知って夢が破れたと話す女性に、すかさず「それは誰の夢?」と突っ込む場面とかね。あるいは、「週2回料理してる」という男性に、「それで奥さんは満足してるの?」と問うところとか。クライアントが納得した上で行動を変えるのでなければ意味がないという基本姿勢が、こんなところにも表れているような気がします。

ケア能力でセクシーに

これもジョナサンの台詞なんですが、第3話でこんなのが出てきます。

社会や文化は男性にセルフケア(自分で自分の面倒をみること)ってものを教えない。セルフケアって、別に女の子っぽいことでも、バカなことでも、「そこまでしなくてもいい」ってものでもないのに。

Society and culture doesn't teach men to do self-care. It's not girly, stupid or too much.

これもまた、番組全体の方向性を象徴している台詞だと思いました。もっと言うと、『クィア・アイ』が目指しているのは、クライアントが自分自身のみならず大切な人のケアもできるようになることだと思います。ファブ5が依頼者たちにグルーミングの仕方や似合う服の選び方を教えるのは、人から褒められるためではなく、まず自分で自分を大事にできるようになるため。そして、大切な人に誇らしく思ってもらうため。毎回料理を教えるのも、家族や客をもてなすことができるというケア能力の向上のため。自他のケアができることは自信につながるし、その自信こそがセクシーなんだというのが、この番組の主張なのだと思います。

実際男性はケア能力を身に着ける機会を奪われがちですし、この番組の視点は重要だと思いました。シーズン最終話の、ある小さな町の市長を「改造」する回で特に思ったのが、ファブ5たちが教えているケアは日本だったら全部「女がやれ」と言われて終わってしまうことだということ。男性の外見がだらしないのも、部屋が汚いのも、食生活が乱れているのも、全部「妻/母親/彼女は何をしてるんだ」ってことにされちゃうでしょ、日本なら。特に相手が市長ともなれば「恐れ多くも市長様を雑事でわずらわせるなどけしからん、仕事に専念できるよう女がちゃんと世話すべき」と考える人が大半なんじゃないかな。米国だって50年代あたりだったら完全にそうでしょう。でも、ファブ5的にはそうやって受け身でケアされるだけの立場は全然セクシーじゃないんですよね。そこがとても現代的で面白いと思いました。

でも、トランスジェンダーの扱いが……

第5話「クィアに乾杯」で、リブート版初のトランス男性の依頼者が登場します。それ自体はいいことだと思うんですが、気になったことがひとつふたつ。

まず、この回のオープニングがいきなり「依頼者の乳房切除手術と、その映像を(本人の事前の同意すらなく!)眺めるファブ5の図」だというところはどうかと思います。シスの人々がトランスジェンダーの人々の体の状態にばかり焦点を当てたがることは問題だと以前から言われているのに、この導入はちょっと雑すぎるのでは。その後の話題が、手術による家族からの拒絶や、運転免許証のジェンダー変更など、「下世話なシスの人がトランスの物語で見たがるステレオタイプ詰め合わせ」状態になってしまっているのももうちょっとなんとかならなかったのかと思いました。ゲイの依頼者の回なら、ここまでステレオタイプじゃなくない?

もっとも問題だと思ったのは、ファッション担当のタンが、この回の依頼者に会いに行く車の中で、無邪気に「僕は初めてトランスの人に会う("I've never met a trans person.")」と言い放っているところ。それ、あなたが「トランスとしてカミングアウトしていない人間は全員シスジェンダーだ」と勝手に決めつけてるだけだから。あるいは「トランスジェンダーの人は見た目で区別がつくはずだ」と思い込んでいるだけだから。異性愛者が同性愛者に対して似たような戯言を言うこともあって、それだってたいがい失礼(実際、レズビアンのあたしに面と向かって『レズビアンに会ったことない』とか『同性愛者なんてそうそういないでしょ』とか言っちゃう人は少なからずいて、そのたびに『黙ってりゃヘテロと決めつけんな』とモヤモヤしてきましたよあたしゃ)なのに、トランスの人が相手ならそういうことをしてもいいと思ってるんでしょうか。

ちょっと調べたところ、タンは英国生まれで、現在は米国在住であるようです。そして、調査会社ユーガブ(YouGov)の世論調査によれば、英国人には平均で3.1人のレズビアンの知人が、そして5.5人のゲイの知人がいるとのこと。米国はどうかというと、ピュー研究所 (Pew Research Center)の調査では、米国人の大半(87%)に同性愛者の知人がいるとされています。ひょっとしたらこのようなバックグラウンドのおかげで、タンはこれまでゲイに向かって「ゲイに会うのは初めて」と言い出す人を見たことがなかったのかもね。しかし、だとしても彼のあの発言が無神経なことには変わりがないし、誰かが止めるなりいさめるなりすべきだったと思います。スタッフにも共演者にもあれを問題視する人がいなかったというのは、ちょっとショック。

まとめ

S1と同じく、「毒舌ゲイのファッションチェック」でも「おしゃれなゲイの力で人から褒められよう!」でもなく、ファブ5と依頼者たちが力を合わせて変化を生み出していくところが楽しかったです。自他へのケアができるようになることで得られる力が重視されているのもよかった。でも、トランスジェンダーの回にはいろいろ改善の余地があると思いました。主要な登場人物がゲイで、ゲストも移民や非白人、女性などマイノリティが多い番組なのに、ここだけ詰めが甘いというのは残念。S3に期待。