石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

アゲアゲで楽しかった、でもエメット出しゃばりすぎ~ミュージカル『キューティ・ブロンド』感想(ネタバレ)

Legally Blonde

しっかり笑えて楽曲もアゲアゲ、でも一部ひっかかるところも

同名の映画にもとづくブロードウェイ・ミュージカル、『キューティ・ブロンド』の日本再演( 刈谷市総合文化センターで鑑賞)。カリフォルニア娘のエルが自分を捨てた元彼を追ってハーヴァードのロースクールに入学し、そこで新たな自分を見つけるというお話で、しっかり笑えて楽曲もアゲアゲでした。主演の神田沙也加は歌もダンスもキレッキレだし、ゲイネタやレズビアンネタにも映画とはまたちょっと違う工夫があってよかったです。ただジェンダーの観点からすると、2001年の映画版より後退しているんじゃないかと思うところも。あと訳詞の問題なのか滑舌の問題なのか、歌詞がほとんど何言ってるのかわからないキャラ(たち)がいたのも残念でした。

よかったところ

テンポよく笑えて盛り上がる

「オーマイガー!」というキーワードでテンポよく話をつないでいく楽曲と、早着替えの視覚的楽しみ、翻訳不能なギャグ("package"が『荷物』『股間のふくらみ』のダブルミーニングになってるところとか)を小道具と役者の動きでカバーする手腕など、大変よかったです。一度は挫折したエルが再び法廷に向かう"Legally Blonde Remix"の場面は、これらのお楽しみ要素を全部合体させた上に物語全体のテーマをのっけたパワフルなもので、何度でも見たいと思いました。

神田沙也加のエルっぷり

神田沙也加演じるところのエルは、「声を張り上げるわけでも特別派手な動き方をするわけでもないのに、常に目を引く」といういかにもこのキャラらしいカリスマがあったと思います。歩き方まで完璧に映画版のエル・ウッズに寄せているところもすばらしい。場面に応じて表情と声をがらりと変えるコメディエンヌっぷりもみごとで、当たり役だと思うので末永くやってほしいです。

ゲイネタ・レズビアンネタの工夫

これについては映画より上だったんじゃないかと思いました。まず、エルが裁判の重要な証人がゲイだと言い出して一同騒然となるくだりを歌にした" There! Right There!(Gay or European?)"の場面がアホアホしくてよかったです。映画版のこの場面はかなりゲイとラテン系への偏見(『ファッションブランドに詳しい』、『信用できない』など)に乗っかっているところがあって、今見てもかなりあやういと自分は思ってます。その点、ミュージカル版ではパンチラインをもう少しはっきり「自分たちの持っているステレオタイプが原因で混乱しまくるアメリカンエリート弁護士たちのアホさ」に寄せてきていて、映画より見やすくなってると思いました。

エルの学友、イーニッドのレズビアニズムの描写もさりげなくて好印象でした。セリフの説明にたよらず、服装や、あの"bend and snap"(訳は映画だと『かがんで……パッ!』、ミュージカルだと『かがんで……おっぱい!』)にからめた言動で見てとれるようになってるんです。

疑問に思ったところ

ジェンダー描写がちょっと……

話の全体の枠組みが、古典的な「女はいい男に教え導かれ、娶られれば幸せになれる」って風になっちゃってない…? あと、女と女の連帯っていうテーマも弱くなっちゃってない?

まず、エメットがでしゃばりすぎ。ミュージカルだとなぜか、エルがポーレットの犬を取り戻したのもロースクールでの成績を上げたのもエメットの功績大だってことにされちゃってたんだけど、変でしょ、これ。映画だと、エルはひとりでポーレットを助け(エメットはあの場所に行ってすらいないよね?)、自分で決めて勉強用のノートパソコンを買いに走り(機種は独特だったけど)、自ら勉強グループに入ろうと努力もして(すごく可哀想な展開だったけど)、自分の意思で猛勉強した人だったはずじゃん。エメットはあくまで「親切な狂言回し」ぐらいの位置にいたキャラで、エルの成功は自分を信じたことによるものだったはずじゃん。それがミュージカルだと「エルは新しい男のエメットに引き上げてもらったおかげで昔の男を見返すことができました」みたいなふっるい型にはめられてしまっているように感じます。この古臭さは、エルがエメットにファッション指導をする場面をちょっぴり入れたからといってそうそう相殺できるもんでもないと思うんだけど。

それだけならまだしも、これは日本版オリジナルの演出なのか(少なくともMTVで放送したブロードウェイ版にはなかったと思う)、話の最後にエルとエメットの結婚式を持ってくるってのがさらにアカンと思いました。物語の「プロポーズで始まりプロポーズで終わる」という様式美をぶっ壊してまで「女の幸せは結婚」オチにする意味が本気でわかりません。2001年どころか、ディズニーの『シンデレラ』(1950年)まで退行しちゃってるよ。もうひとつ、これも日本版だけなんじゃないかと思うんだけど、エルの入学試験用ビデオ論文の審査員に女性がひとり混じっていて、「男性審査員たちがエルを入学させたがる一方、この女性ひとりだけがヒステリックに反対する」という展開にされているところも意味不明だと思いました。あの場面の笑いどころは「東海岸のmale-dominatedなエリートの世界にカリフォルニア・ガールが変化球で切り込んでいく」ってところだったはず。そこを時代遅れの「女の敵は女」風味に改変しないでほしかったわ。

コーラスが聞き取れない

デルタ・ヌウの女子学生たちがコーラス要員として要所要所に出てくるのはいいんだけど、彼女らの歌の歌詞がまったくと言っていいほど聞き取れないことにイライラしました。冒頭の状況説明の歌からして何言ってんだかさっぱりわからず、自分の耳が突然悪くなったのかとすら思ったぐらい。でもその後出てくるエルやエルのパパやキャラハン教授やポーレットの歌は問題なく聞き取れたので、もしかするとこれは訳詞か演者の問題なのかもしれません。

まとめ

全体的には大変よかったので、映画の方のファンの人にも、映画を見てない人にもおすすめです。ただエメット周りの描写や、女の連帯というテーマについては映画の方が勝ってると思います。あと、コーラスによる状況説明がわかりにくい(聞き取りにくい)ので、あらすじを知らない人は軽く予習していくといいかも。

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