石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

PCゲーム『希望入りパン菓子』(LOVERSOUL)レビュー

オムニバス形式のリーディングストーリー

『希望入りパン菓子』は、「Visual Reading Story」、つまり小説の台詞部分をフルボイスにして絵をつけたもので、オムニバス形式の全3話から成っています。ちなみに同人ソフトです。以下、良かった点、今いちだった点、各話ごとの感想、の順に書いて行きます。

良かった点

1編30分~1時間程度でサクサク進められること。それから、3編とも単に女の子同士がベタベタする話ではないこと。ところどころに名文句(例:『三十秒のあいだに言えなかったら、もう一生言えないことってあるじゃない』)が光るのもよかった。18禁ではないためモロのHシーンは一切ないのですが、萌えシーンだけで充分ドキドキできるのでその点は全然問題なしです。エロがなくてもここまでやれる、というお手本のようです。

声優さんがみんなうまいなあと思ったら、処女宮のこのみの声の人(梨本悠里)がいてびっくり。梨本さん以外も上手で、安心して聞いていられます。

今いちだった点

グラフィックがお話に合っていないような気がします。ロリっぽい絵でまったく高校生に見えないのはまだ我慢できるとしても、猫耳だの尻尾だの変な王冠だの、ストーリーにもキャラ設定にも全く関係ないアイテムをゴテゴテくっつける意図がよくわかりません。また、キャラクターの容貌などについても、テキストと絵とで描写が激しく食い違っているところがあり、読んでいて疲れました。

ちなみにテキストの方にもある種の読みづらさがあると思います。かなり理屈っぽい上に、時々書き手以外の誰にもわからない論理が延々と展開され、読み手が置いてきぼり状態になってしまうんですね。文章自体が難解なのではなく、単に飛躍があったり説明不足だったりするのが原因で、せっかくのストーリーを失速させてしまっているような印象を受けました。

各話ごとの感想

『希望入りパン菓子』

茜がどうして家にいられないのか、とか、あの翼はいったい何なんだ、とか、どうして茜は明歌が好きになったのか、とか、もう少し詳しく説明してほしいところが多かったな。でも、あんまり説明しすぎるとくどくなりそうだし、難しいところでしょうか。

主人公が琴子さんと茜を恋人同士かと疑うところや、茜のピアスを外すところはかなりいいですね。耳たぶを口に含むところなんて、けっこうぞくぞくしました。

『人生に必要な技術』

この話で惜しかったのは、今ひとつキャラが立っていないこと。「体だけ好き」な藤島と、真似ごとが嫌いなとうこさんって、もっと極端な味付けができるキャラだと思うんだけどね。でも、藤島の、閉館後の図書館でいきなり

「あなたの体が好き。さわりたい」

と言い放つ大胆さはかなり好きかも。さらにその後、

「別に、つきあいたいとかじゃなくて、体だけ好き」

「お願い、さわらせて」

とステキな台詞が続くところも、とても楽しかったです。

『海の底の廃墟』

キスシーンの描写が良かったです。絵はともかくとして、テキストがいいのよ。みのりじゃなくてもあのフェイントには「やられた!」と思いました。

まとめ

相当クセのある作品なので、体験版をプレイしてから買うかどうか決めるのが吉でしょう。テキストが小難しいこと、グラフィックが独特なことなどから、人によって評価はまっぷたつに分かれそうです。個人的には、2000円でこれならじゅうぶんOK、と思います。