石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

映画『Vフォー・ヴェンデッタ』』感想

Vフォー・ヴェンデッタ [DVD]

Vフォー・ヴェンデッタ [DVD]

傍観者ではいられない近未来物

セクマイ友達から薦められて観たのですが、とても良かったです。

うわべだけみると、この映画は、「近未来の恐怖政治下のイギリスで、独裁者一味に復讐する仮面の男『V』の冒険活劇」のように見えます。けれど、このお話の本質はそんなところにはありません。この物語の主人公はあなたであり、わたしであり、誰も傍観者ではいられません。イーヴィー(あれを『イヴィー』と表記するのは間違いでしょう)の地下鉄での台詞や、「V」が最後まで仮面を取らないこと、そして、クライマックスで集結した群集の中にあの人やあの人やあの人……の顔があったことが、それを非常によく表していると感じました。

そう、これは「V」というスーパーヒーローの復讐譚ではなく、「理念」と力との戦いを描いた寓話であり、その「理念」に共感した人は、たとえその身は映画館の観客席にあっても(あるいは居間で寝転がってポテチを食いながらDVDを見ていても)同時に仮面を被ってあの場に立っているのだ、と思いました。赤と黒のスタイリッシュな映像と抑制のきいた演出で、観客をそこまでお話の中に巻き込んで見せた創り手さんたちに、敬意を表したいと思います。

ゲイ&レズビアンの描写について

同性愛者がただの添え物ではなく、お話の中で大切な役割を担っているのが嬉しかったです。特にレズビアンのヴァレリーの描き方が良かった。本当に女の人が好きな人であったこと、誠実に生きようとしていたこと、愛する人とめぐり合って幸せに暮らしていたこと……などが、短いシークエンスの中で痛いほど良く伝わってきました。キスシーンや初恋のシーンなども、切なくて美しくて、素晴らしかった。

そんでですね、極度に右傾化した社会の中で同性愛者が弾圧されるようになっていくくだりは、すげえリアルで怖かったですよ。あれは別にマンガチックでも大仰でもなく、現実にすぐ起こりうることだ、とあたしは思いました。そもそもナチスドイツなんか平気でああいうことをしてたわけだし、日本が今後、ああならないって保証なんてゼロですよゼロ(だいたい、ほんの数十年前には平気で『反体制分子』を逮捕・拷問のあげく虐殺してた国ですよ日本は?)。

作中の「『表現』や『解釈』という言葉が危険になり、『国家への忠誠』が強要され、『人と違うこと』が危険になった」なんてあたりは、まさに現在の日本を彷彿とさせて、背筋が冷たくなりました。いざというとき、あたしは「理念」を持ち続けられるだろうか。ヴァレリーのように「幸せなバラの3年間」を支えに最後まで頑張れるだろうか。そんなことを思いましたね。

まとめ

「美しい国」なんてうさんくさい言葉が横行する昨今の日本でこそ多くの人に見られるべき映画だと思います。現実にはサトラー議長のようにわかりやすくカリカチュアライズされた「独裁者」はそうそう現れないけれど――いや、現れている国もありますが――フィンチ警視が言う通り、「全てはつながっている」のですから。この日本の現実と『Vフォー・ヴェンデッタ』もやはりがっちりとつながっていて、誰しも決してこの映画のテーマと無関係ではいられないと思います。ましてセクシュアル・マイノリティであるなら、なおさら。