
- 作者: いのうえこうじ
- 出版社/メーカー: 司書房
- 発売日: 2007/03/26
- メディア: コミック
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ホモフォビアと偏見がいっぱい
大ハズレ。30秒ぐらいパラパラ読んでみた時点で、ブックオフ行き決定。
ハズレな理由その1:「レズ部」って何よ?
これは女子野球部を舞台とした4コマ漫画で、主人公・土筆(つくし)と先輩・小水葱(こなぎ)の女のコ同士の恋を描くドタバタコメディです。それはいいのですが、2人の恋を「現在我が部で起きている『問題』」としてわざわざチームメイトが会議を開くんですね。言っときますけど土筆と小水葱の関係は、別に誰かに迷惑かけてるわけでも部活に支障をきたしてるわけでもないんですよ。なのに同性同士だっていうだけで「問題」のレッテル貼って会議。そのあたりからしてもうホモフォビックなのに、ふたりの関係に気づいていない部員・蓬(よもぎ)が得意満面で言い散らす台詞(p48)がとにかくひどい。
だいたいレズってアレだろ? 女と女が手つないだりしてるようなヤツ
そんなのうちの部にいるわけねーじゃん
うちは野球部だぞ そんなヤツはレズ部行くっつーの
根拠もなくいきなり同性愛者の存在を否定し(『うちの部にいるわけねーじゃん』)、クロゼットに押し込めようとする(『そんなヤツはレズ部行くっつーの』)というのは典型的なホモフォビアのパターンです。せっかくギャグ4コマを楽しもうと思ってこの本を開いたのに、いきなりそんなエグい同性愛嫌悪をむき出しにして見せつけられたこちらとしては、頭から冷水をぶっかけられたような気持ちになりました。
別に、ホモフォビックな発言をするキャラがいること自体が悪いと言っているわけではありません。たとえば、あらきかなおの『夢みたいな星みたいな』(メディアワークス)には「共学じゃないから寂しさ紛らわすためにレズごっこ? ムナシーわね」なんていうきっつい発言が出てきますが、それでもこの作品が同性愛嫌悪的だとは、あたしは思いません。それは、お話の中で、そのキャラクタの発言が結局間違いであることがきちんと描かれているからです。ホモフォビアをただむき出しにするだけでなく、それが愚かな偏見であるところまでしっかり描写されているからですよ。
でも、この『Diamond 9』には、蓬のホモフォビアを否定する描写は一切ありません。「そんなやつはレズ部行くっつーの」発言の後、蓬は他の部員から「よもりんってさ――ばかなの?」と言われてはいますが、その「ばか」は「土筆と小水葱がカップルと気づいていないこと」にのみ向けられており、「レズはレズ部に行け」というひどい偏見については誰も問題視すらしていません。そこがもうイタタで駄目すぎる。この「ホモフォビアを垂れ流すだけ垂れ流して何のフォローもなし」具合は、川原泉の『レナード現象には理由がある』(白泉社)に匹敵するものがあると思いました。
それにさー、だいたい何なのよ「レズ部」って!? レズビアンが野球やっちゃ悪いわけ? そもそもレズビアンにはスポーツ好きが多いから、「本当は野球がやりたかったけど、女子野球部がなかったからソフト部に行った」って理由でソフトボールをやってた人なんてめちゃくちゃたくさんいるんですけど。あたし自身、ソフト部で5番バッターだったわよっ。何が「レズ部」だ、寝言は寝て言えっつーのよ!!
ハズレな理由その2:「男性嫌悪の人が『レズ』になる(または、『レズ』は男性を嫌悪している)」という偏見あり
土筆が「レズ? 私ってレズなの?」と悩んだあげく、小学生時代に男子に胸の大きさをからかわれたことを思い出して「あんな頭が悪くてガサツな生き物と恋だなんて……ぜったいにイヤ!」と叫ぶシーン(p37)があるのですが、その欄外につけ加えられた作者の手書き文がこれなんですよ。
レズですね、どう見ても
ここに見られるのは、「男性嫌悪の人が『レズ』になる(または、『レズ』は男性を嫌悪している)」という幼稚きわまりない偏見です。レズビアンってそういうもんじゃありません。女探偵ローレン・ローラノの台詞を借りて言うなら、「どうして男性を嫌いになる必要があるんです? 寝る必要がないだけです」ってのがレズビアンです。いくら女のコ同士がいちゃいちゃする漫画を描いていても、作者の発想がここまで貧困かつ偏見まみれでは、すべて台無しだと思います。
そもそも、こうも無配慮に「レズ」という単語を連呼してる時点でイタい、ということもありますけど。どうせ「レズ」という語を使うなら、『プリティ・タフ』(佐野タカシ、大都社)のなりりんのあの「レズで悪いか ブタのケツー!!」ぐらいに胸のすくシーンのひとつも入れてみやがれ、と思います。
まとめ
絵は可愛いし、メインカップルのラブラブっぷりも悪くはないのですが、ホモフォビックな点が多すぎて楽しめませんでした。可愛い女のコがたくさん出てくる百合群像劇が読みたければ『学園Like Love Life』(NAL=ASK、司書房)を、熱い百合恋愛が見たいのなら『プリティ・タフ』や『落花流水』(真田一輝、芳文社)を読んだ方が、いらん偏見にイライラさせられずに楽しめると思います。