- 作者: 深見真,蕗野冬
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2005/06
- メディア: 新書
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すげーおもしれー!
わははははは何これ(誉めてる)! すげーおもしれー!
『ヤングガン・カルナバル』は、高校生にしてヤングガン(若き殺し屋)の主人公ふたりが活躍するバイオレンス・アクション小説で、現在シリーズ8巻まで刊行されています。ちなみに主人公のひとりはレズビアンです。うちの掲示板でビューワー様から薦めていただいて8冊全部まとめ買いし、本日「さて1巻を読んでレビューするか」と読み始めたところ、途中でやめられなくなって一気に8冊全部読んでしまいました。「巻置くあたわず」というのはまさにこういうことを言うのですね。ちなみに昼食を食べる時間さえ惜しく、片手でパンをかじりながら読みまくっていたため、現在すさまじい空腹に襲われています。しかし、メシなんて二の次です。まず感想書きたい!
レズビアンのキャラクタについて
まず、最大のお目当てだったレズビアンのキャラクタ・鉄美弓華(てつよしゆみか)がすんごくいいんですよ。若い雌虎みたいに強くて危険で美しくて、そのくせ恋に不器用で。弓華の恋はところどころ、スーパーマンとロイス・レインの、またはスパイダーマンとメリー・ジェーン・ワトソンの恋みたいなところがあって、見ていてニヤニヤしてしまいました。『ヤングガン・カルナバル』はバイオレンスとガンアクションが売りの小説ですが、その一方で弓華の一筋縄では行かない(実際、スーパーマンよりもスパイダーマンよりも大変そうな)恋の行方を追いかけ続ける小説としても読むことができ、そこがたいへんに面白かったです。女性同性愛が刺身のツマみたいな扱いじゃなく、ここまでしっかりと話の本筋に絡んでいるというのは、レズビアンとしてはすごく嬉しいですね。
ちなみに、お話の中に『サモンナイト クラフトソード物語』がきちんと百合ゲーとして登場していたり、弓華の携帯の着メロが東京少年の曲だったり、映画『バウンド』の話が何度も出てきたりと、細かいところまで徹底して同性愛ネタが多いところも楽しかったです。さらに、女性が好きな女性キャラが弓華だけじゃないところもよかった。「ひとりでも同性愛者が活躍してくれてればそれだけで嬉しい」と思って読み始めたのに、こんな贅沢していいんだろうか、と喜んでしまいました。
隠れた同性愛要素(?)について
はっきりゲイだとわかる人は少ないものの、一部の男性キャラクタ(複数)の、それぞれ特定の同性に対する執着っぷりがやたらとゲイゲイしいなあと思いました。ただし、女性の女性に対する執着は時に肉欲をも内包する愛情として描かれているのに、男性の男性に対する執着はほぼ一貫して崇拝や憎悪や嗜虐心の形を取って描かれているのが興味深かったです。あたしはこれを一種の男性同性愛と読み取りましたが、ノンケの読者さんの目にはどう映るのか、ちょっと気になるところ。
バイオレンスとアクションについて
肝心のバイオレンスとアクションについても花マル。銃を使った戦いだけでなく、格闘シーンもとにかく熱く激しくスピーディーです。アクション映画や初期のウルフガイ・シリーズ、夢枕獏の格闘小説*1なんかが好きな人なんかにはたまらん小説だと思います。ただし「ソフ倫十八歳以上推奨、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています」(本文より)というほどきっついバイオレンス描写(スペンサー・シリーズで言うと『キャッツキルの鷹』かそれ以上の濃さだと思いました)が続出する上に、性的な暴力のシーンもけっこうあるので、お子様にはあんまり薦められません。お子様は隠れて読め。そして大人は堂々と読んで酔いしれろ。そういう小説だと思います。
ちなみに全体的には非常にマンガ的な作品ではあるのですが、お話の持つドライブ感が凄すぎて、「リアリティ? それがどうした」という気にさせてくれます。たとえば出てくる格闘技だけでも軍隊格闘術、ボクシング、古流空手に中国拳法にキックボクシング、プロレス、シルム、etc.と「どこの格ゲーですかこれは」と思ってしまうほどに華やかすぎるラインナップなんですが、いいんです。面白いんだからいいんです! いみじくも1巻でとあるキャラが言っているこの台詞に、あたしは全面的に同意します。
エンターテインメントにおけるリアリティの定義は難しいっしょ? そんなものハナから存在しないとも言える。主観と誇張が入れば、ノンフィクションでさえリアリティを保つことは難しい。ディテールの正確さと作品のリアリティはまったく別のものだとワタシは思うな。リアリティという言葉は人間の感情部分でこそ使われるべき。
難点いくつか
以上のようにこの上なく痛快な小説なんですが、読んでいてひっかかる点がないわけではありませんでした。以下、列挙。
- 何箇所かで、同性愛が「性癖」と称されているところ。性的指向と性癖とはまったくの別物です。異性愛者が異性を好きになるのが別に「性癖」ではないように、同性愛者が同性を好きになるのも「性癖」ではないので、この扱いはちょこっと悲しかったです。
- さまざまな研究によると、レイプの最大の動機は性欲の発散ではなく力の誇示だそうです。しかし、このお話ではとある箇所でそこが混同されており、レイプ加害者であることがとあるキャラのセクシュアリティを判断する根拠に使われていたので、なんか変な気がしました。
- 一箇所、同性愛と性同一性障害を混同している台詞があって、やでした。(ただし、単にその発言をしたキャラクタが無知なのだと考えれば納得できる範囲ではあります)
しかし、これらは皆、些細なことです。今日、まる1日、昼メシを抜いてまで「続きが読みたい!」と夢中にさせてくれたこの小説が、あたしはやっぱり大好きです。今だってもう夜なのに晩メシを放棄して必死でこうやって感想を書いているのは、「すげー面白かった! この面白さを誰かに伝えたいぜうおおおお!」いう欲望が頭の中で燃え狂っているからです。
ちなみにこの日記をアップしたら、トレーニング部屋に篭ってヘビーな筋トレをしてくる予定。弓華の活躍を見てたら、自分も体を鍛えたくなって、いてもたってもいられなくなって。まるでアンジェリーナ姐さんやジョボビッチ姐さんの映画を見た後のように、体がうずうずしています。『ヤングガン・カルナバル』とは、そういう小説です。
まとめ
銃と格闘と同性愛をがっつり描きまくった、おっそろしく痛快なバイオレンス・アクション小説だと思います。ほんの一部だけノンケ目線(より正確には、ヘテロノーマティブな目線)になってしまってはいるものの、同性愛の扱いは概してまとも。何よりもレズビアンのキャラクタ鉄美弓華が超絶かっこよくてたまらんです。ほかにももっと書きたいことはあるのですが(たとえば、塵八の純真さと凄腕なところのギャップがすごくいいよとか、いろんなキャラの親子関係の闇が興味深いとか)、それをやったら朝まで「ここがよかった、あそこがよかった」と書き続けることになりそうなので、今日はいったんここで止めておきます。ああ、堪能した。
*1:個人的には、夢枕さんよりこちらの方が好きですけど。