石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『しずるさんと底無し密室たち』(上遠野浩平、富士見書房)感想

しずるさんと底無し密室たち The Bottomless Closed-Rooms In The Limited World (富士見ミステリー文庫)

しずるさんと底無し密室たち The Bottomless Closed-Rooms In The Limited World (富士見ミステリー文庫)

前作よりおすすめ

病気でほとんど寝たきりのミステリアスな美少女「しずるさん」と、ワトソン役の少女「よーちゃん」が難事件を解決するシリーズ2作目。前作『しずるさんと偏屈な死者たち』の表紙では寄り添って座っているだけだったふたりが今回の表紙絵では手を握り合っていたりして、百合っぽさはかすかにアップ。内容的にもごくごくわずかに百合度が増していると感じました。謎解きに関しても前作ほどの破綻は見られず、それなりに納得のいくものだったと思います。ミステリとして読むにはやや物足りませんが、少女たちのふるまいやほのかな百合っぽさを楽しむにはよい小説かと。

百合要素について

以下はよーちゃんの独白(p177)。

私はしずるさんのことをどう思っているのか、それは自分でもよくわかっている。よく知っている。でも――彼女は、私のことをどう思っているのだろうか?
私はそれが知りたいのか、知りたくないのか。
それを思うとき、確かに私の心に、何かがそこにいるような気がする。ほんとうはどうなのだ、と暗がりから私に話しかけてくる、はかない影法師の姿が。

こんな感じでそこはかとない百合っぽさが仕込んであるところが印象的でした。たぶんこの先どんなにお話が進んでも、このシリーズはあからさまな百合恋愛ものにはならないんじゃないかとあたしは踏んでいるのですが、こういったほんの少しだけ漂う百合な雰囲気もまた良いものだと思います。

しずるさんとよーちゃんの正体は何なのか?

上のパラグラフであたしは「この先どんなにお話が進んでも、このシリーズはあからさまな百合恋愛ものにはならないんじゃないか」と書きました。あたしがそのように考えているのは、しずるさんとよーちゃんが、あるいはそのどちらかが現し世の人ではないのではないかと憶測しているからです。

1作目を読んだ時点では、漠然と「しずるさんは既に死んでいて、このお話全体が眠りについたしずるさんの見ている夢なんじゃないだろうか」と考えていました。ふたりの少女のリアリティの薄さやしずるさんのいる病院の非現実感、全体に漂うダークな雰囲気などから考えると、そういう解釈もありだなあと。そもそも1作目の英語タイトルからして、"The Eccentric Dead in White Sickroom"ですしね。

今回、収録作「しずるさんと影法師」を読んで、「しずるさんは既に死んでいて、よーちゃんの幻想の中にしかいない、という解釈もありかも」と思いました。もちろんこれらの解釈が全て間違いで、しずるさんは単なる大金持ちの病弱少女だとか、実は宇宙人だなんて可能性もありますが、いずれにしてもふたりが怒涛の恋愛モードに移項することはなさそうだというのがあたしの考えです。それはそれで面白いので、全然オッケーなんですけど。

トリックについて

やや強引なトリックもないではないものの、1作目に比べればよっぽど破綻が少なく、安心して読むことができました。どの作品もオチは早々に割れてしまいますが、謎解きよりもしずるさんとよーちゃんの関係性を楽しむための小説だと思うので、これはこれでかまわないと思います。

まとめ

不思議でダークな雰囲気はそのままに、ごくわずかに百合度がアップした1冊でした。謎解きに関しても前作ほどの粗はなく、ストレスなく読めると思います。