石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『しずるさんと無言の姫君たち』(上遠野浩平、富士見書房)感想

しずるさんと無言の姫君たち―The Silent Princess In The Unprincipled Tales (富士見ミステリー文庫)

しずるさんと無言の姫君たち―The Silent Princess In The Unprincipled Tales (富士見ミステリー文庫)

ミステリとしては単純、百合っぽさは微増

病弱なアームチェア・ディテクティブの「しずるさん」とそのパートナーの少女「よーちゃん」の難事件解決シリーズ3作目。相変わらずミステリとしては単純すぎる筋立てですが、「しずるさんとは何者なのか」「ふたりの関係は何なのか」というふたつの謎はますます深まっていて面白かったです。ちなみにかすかな百合っぽさは1作目より2作目、2作目より3作目と、ごくわずかずつ増加し続けているように感じました。

謎解きについて

あまりにも無茶なトリックが多く、「まさか、これはないでしょう」と思うようなベタな展開目白押し。よって、ミステリらしい謎解きあるいは犯人探しの面白さを求めて読むには不向きです。一方、「しずるさんとは何者なのか」「しずるさんとよーちゃんの関係は何なのか」という、シリーズ全体に流れる謎の方は、尻尾がつかめそうでつかめない奇妙なバランスでもって読者を翻弄します。ほんの少し新たな情報が出てきたと思いきや、結局さらに謎が深まったりして、目が離せません。あくまでもこちらに主眼を置いて読むのが吉でしょう。

百合っぽさについて

しずるさんとよーちゃんの心のつながりを示唆する文章は、3作中でいちばん多いんじゃないでしょうか。しかもそれが、前述の「しずるさんとは何者なのか」という謎ともあいまって、ただのフワフワしたラブストーリーなどでは醸し出せないような不思議な深みをたたえているところが特徴的。特に収録作「しずるさんと眠り姫」「しずるさんと赫夜姫」あたりではそれが顕著で、一読の価値ありだと思います。

ちなみにおでこをくっつけて熱を測るとか、予期せぬ殺し文句を言われて思わず赤面するとか、そんな可愛いシーンも出てきますよ。百合成分を求めて読むならば、3作中でこれがいちばんのおすすめですね。

まとめ

結局これはミステリの形を借りてしずるさんの正体を徐々に解き明かしていく(あるいは、解き明かしそうでなかなか解き明かさない)というシリーズなんじゃないかと思います。どストレートなミステリやラブストーリーが読みたい方にはおすすめしませんが、ミステリアスな病弱百合娘(微百合娘、かも)の不可思議な謎に翻弄されてみたい方にとってはとても良い小説なんじゃないかと思いました。