- 作者: 涼元悠一,一美
- 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
- 発売日: 2006/12/14
- メディア: 文庫
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重厚・耽美・幼女・百合
面白かったです! この作品を読み解くキーワードは「重厚・耽美・幼女・百合」だと思います。和洋両方の要素をみっしりと書き込んだ耽美な世界観がユニークですし、闇狩姫ことフレイヤが10歳程度の少女の姿をしている点も、お好きな方にはたまらんでしょう。百合要素についても、キスどまりかと思いきや、相当きわどいシーンや色っぽい会話もあったりしてドキドキもんです。続刊が出そうな気配で終わっていますので、2巻もぜひ読みたいと思っています。
和洋の要素がみっしりと
和風伝奇なだけの百合や、西洋伝奇(っていう表現はあるんでしょうか。ゴスロリとか天使と悪魔が云々とか、そういうやつね)なだけの百合というのはよくあると思うんです。が、『ナハトイェーガー』はその両方の要素を贅沢に詰め込んだお話であって、そこがすごく新しいと思いました。
それも、単なる「金髪ゴスロリが西洋、黒髪和服が日本、はいはいこれで和洋折衷終わり」みたいなやっつけ仕事じゃないところがまたいいんですよ。金髪幼女はハイネを口ずさむわ、黒髪少女は「生物室」の表示を素で「むろにものいくる?」と読むわ……という風に随所にほどこされている細かい演出が実に楽しかったです。ザッハトルテに豆かん、精密時計や弓道など、和洋両方のガジェットがこれでもかと出てくるのも面白いところ。あと、特に和風サイドに関しては、傀儡たちの時代がかった喋り方に雰囲気があってよかったです。百合作品ではないのですが、梨木香歩の『りかさん』に出てくる古い人形たちの口調を、ちょっと思い出したりしました。
百合要素について
以下の台詞群からお察しください。とにかく一筋縄ではいかない色っぽい話で、楽しいですよ。
「わたしを愛でてくださるかしら?」
「わたしをお食べになりたいのなら、夜まで待ってくださるかしら。ここでは、恥ずかしいわ」
「わらわは、わらわを愛でる女の子(めのこ)みなのものゆえ」
「かの麗しき闇狩りの姫を、この指がはだかに剥いたのかえ?」
「奏どのなら、さぞや棲みよい沼沢であろうのう……」
「清濁併せ持つ、ということにしておいていただけます?」
「あら、わたしは仲間はずれかしら?」
「水遊びをしたくなったら、いつでもご一緒にどうぞ」
「連れ立ちて夜船に乗るのも一興よのう」
「でも、あっちの水路は船遊びには狭すぎるから」
最後の会話は深読み推奨。そういう意味です、はい。やらしーなー。
その他いくつか
- こんなに重厚かつ緻密に描かれた話なのに、途中で萌えオタ狙いの陳腐なシチュエーション(幼女の体操服姿とか)がわざとらしく差し挟まれているのはやや興醒めでした。そんな手垢のついた記号に頼らなくても、充分読者を引っ張れる話だと思うんですが。
- 「真性の百合な人」「倒錯した感情」など、微妙にヘテロノーマティブな(=異性愛以外のセクシュアリティを『病気』『異常』扱いする)表現が出てくるのがちょっと残念。全体としてはほとんどホモフォビアは感じられない話なんですけどね。
- 奏(かなで)やおーちゃんなど、脇役がとても魅力的。特に奏の正体がとても気になります。まだ回収されていない伏線もたくさんあるので、続刊がとても楽しみです。
まとめ
さまざまな要素がみっちりと贅沢に書き込まれた和洋折衷伝奇百合。キャラも魅力的だし、百合としても色っぽい話だし、たくさんのガジェットもとても楽しいです。ホモフォビアについても、これぐらいなら充分許容範囲かと。変な「受け線売れ線」要素なんてなくていいから、このまま独自路線を突っ走ってほしいなと思います。ていうか早く続きが読みたい!