- 作者: 桂木すずし
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2001/02
- メディア: コミック
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「神の手」を持つ吸血鬼の物語
女好きな大吸血鬼「アンジェラ」を主人公とする物語。というと、『カーミラ』(雑誌ではなくジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュの方)以来の使い古されたパターンのように見えますが、違うんですよ。この吸血鬼アンジェラは乙女を誘惑して食い物にするモンスターではなく、むしろ乙女を護ろうとして必死で苦闘する側だからです。
また、そこに非常にうまく絡んでいるのが、「神の手」という設定。太古からの力を宿す紋章「神の手」をアンジェラが手に入れたいきさつと、その力で愛する少女を護ろうとするという流れには、女性同士の愛や絆がしっかりと打ち出されていると思いました。レズビアンの吸血鬼が主人公でも、こんな斬新な話の作り方もあるんだ! と目から鱗がひっぱがされる思いでした。
『Dystopia』のここがよかった
1. 愛
アンジェラが助けた少女キリエのこの台詞(p87)と、p183の悲しいキスシーン。これだけでもう、百合としては100点満点をあげたいです。なお、後でちょっと触れますが、キリエとアンジェラだけでなく、ガーネットとアンジェラのエピソードも泣けるほどよかったですよ。私はマスターと共に生きることを約束した者! あなたと闘ってマスターをお守りします!
2. 「神の手」という設定
所有者の右手に浮かぶ「神の手」の紋章が、実はそれ自体に殺傷能力がある強力な武器だという点が面白いです。これによって戦闘シーンの迫力が飛躍的に増す上、お話が「強い吸血鬼⇔弱い人間」というありがちな構図に陥らずに済んでいると思います。さらに、
- 「神の手」の所有者を殺すと、力と紋章は殺した者に移る
- 13個の「神の手」をすべて集めると、人智を超える力を手に入れることができる
……という、ドラゴンボールをさらにひとひねりしたような設定もよかったです。作者様もあとがきで書いておられる通り、『Dystopia』は登場人物全員が何かを必死で求めてあがく話なのですが、そこに「神の手」の存在が非常にうまく絡んで、物語をダイナミックなものにしていると思います。
3. 抑制のきいた話運び
「愁嘆場をくだくだしく描かずに、絶妙の間と構図で表現する」という、抑制のきいた話運びがよかったです。たとえば、アンジェラが昔「神の手」を手に入れたときのいきさつなんかがそうですね。「神の手」のもともとの所有者だった女性ガーネットとアンジェラとの絆を丁寧に描きつつ、最も悲劇的な瞬間はたった1コマの回想シーンだけでスパッと表現されているんですが、これがもう胸に響いて響いて。愛と悲劇を描きつつも決して話を陳腐なメロドラマにしない、スタイリッシュな描き方だと思いました。
注意点
四肢切断シーンがとても多い漫画です。ごく大雑把に言って、グロ度は『エルフェンリート』ぐらいかなと思いました。苦手な方はご注意を。
まとめ
胸に響く斬新な吸血鬼物語でした。バイオレンス描写が大丈夫な方なら、おすすめです。