石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ミカるんX(1)』(高遠るい、秋田書店)感想

ミカるんX 1 (チャンピオンREDコミックス)

ミカるんX 1 (チャンピオンREDコミックス)

パンチのきいたハチャメチャ特撮百合漫画

『SCAPE-GOD』(メディアワークス)で「セカイ系SF百合神伝奇もの」という前人未到の作品をものされた高遠るい氏の新刊です。内容は、「ミカ」と「るんな」の少女ふたりが合体巨大化して怪獣と戦うという、いわば超人バロム1またはウルトラマンAの百合バージョン。百合と言っても、現時点では「お近づきのご挨拶」(p67)としてのキスが出てくるぐらいで、あくまで友情路線なのですが、作品全体に濃厚に流れる同性愛の気配が非常に面白かったです。また、百合云々を抜きにしたって、パンチのきいたバイオレンスとアクション、ギャグ及び意表をつきまくる展開など、とにかくおっもしろいんですよこれが! 

作品の底に流れる「同性愛」というコード

前述の通り、今のところミカとるんなの間柄は友人どまり。キスも挨拶としてのものだけです。
が、

  • 表紙絵(下着姿で抱き合って今にもキスしそうな2人)
  • 第1話扉(全裸で意味ありげに横たわっている2)
  • るんなを脱がして興奮する女性キャラの存在(p26)
  • 入浴シーンでの意味深な会話(p67)

など、同性愛というコードが終始この作品の底に流れていることは間違いないと思うんですよね。それらがどれも決して「女のコ同士で『男と女』ごっこをして喜ぶ」というような、異性愛規範を盲目的になぞる形になっていないところも面白いです。また、ミカとるんなが言葉を交わさずとも気持ちが通じ合うシークエンス(pp110-113)などにも、ぐっときました。2巻以降で2人の関係がどうなっていくのか、非常に興味深いです。

バイオレンスとアクション、そしてギャグ

キャラクタの首や四肢は吹っ飛ぶわ、体にグサグサ武器は刺さるわ、当然皆さん大流血するわで、さすが『CYNTHIA THE MISSION』の作者様だと思いました。アクションに関しても、腰の入ったパンチやキックの描写が超素敵です。

それらの過激さをうまく緩和しているのが、秀逸なギャグの数々。たとえばミカの完璧ぶりを描くにあたって、

レタスとさつまいも 古くから日本にあるのはどっち!

といきなりクイズで知性アピールしたり(p30. クイズの答は読んでのお楽しみ)、突然自分と相手の手に墨を塗って

垂直跳び!

と華麗にジャンプして体力を誇示してみたり(pp30-31)と、斬新すぎるほど斬新な表現にウケまくりました。また、るんなが福井県出身であることを生かした福井県ギャグの数々もたまりません。「グロは一切ダメ」という方にはおすすめしませんが、そうでないならこのハチャメチャさを楽しまないのはもったいなさすぎると思います。

意表をつきまくる展開

黒いと思っていた人が実はいいやつだったり、正義の味方だと思ってた人が実は黒かったり(?)と、くるくる変わる展開がたいへん魅力的です。スピーディーな展開でもお話の軸がまったくぶれないのは、子供の頃誰もが心に抱いた「怪獣はなぜ地球を襲うのか?」という問いにひとつの答えを出すというテーマが一貫しているからでしょうか。いずれにせよ、単なる「悪の怪獣や宇宙人VS正義のヒーロー」というだけの構図にはおさまらない、動きにあふれたストーリーがナイス。

まとめ

同性愛の香りはふんだんにあるけれど、今のところは友情どまりのお話です。ただし、過激さとハチャメチャな面白さ、ひねりの効いた展開には目を見張るものがあり、これを見逃すのは非常にもったいないかと。2巻以降も非常に楽しみです!