石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『恋愛少女』(へっぽこくん、松文館)感想

恋愛少女 (別冊エースファイブコミックス)恋愛少女 (別冊エースファイブコミックス)
へっぽこくん

松文館 1997-12
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

オチはラブいし男も出てこないんだけど……

18禁レズビアンエロ漫画。大きく分けて、メガネっ娘「則子」と女性の先輩との愛を描く学園物と、ファンタジー風味な「MM」の2種類の物語が入っています。全編これ少女同士のお話ばかりでエロも豊富、男性の介入もなく、しかもどちらの話もオチはラブラブ。ロリっぽい絵柄も、お好きな方にはストライクゾーンかと。ただし、ヘテロ男性(の一部)が盲信しがちな「イヤよイヤよも好きのうち」「女なんてやってしまえばこっちのもの」という価値観がそこここに見られるところはいただけませんでした。そうした迷信を女女関係にまで持ち込むのが大好きな読み手さんならまた違った意見が出てくるのかもしれませんが、あたしにはあんまり合いませんでしたね。

則子と先輩のお話について

転校が決まった先輩と離れがたくてセックスしてしまう「STAY WITH ME」、再び一緒に通い始めた学校でHな透明人間が活躍する「SHOT IN THE DARK」、ちょっとした誤解を経てラブラブ和姦で話を閉じる「PRESENT」の3連作です。3作中もっとも印象的だったのは、「STAY WITH ME」のラスト1ページ(p20)。

「おめーら へんたいかぁ?」

と男子生徒に揶揄されて、

うるさい! 則子は私の恋人だ!

と言い切ってみせる先輩の姿に涙。「へんたいじゃない」と怒るのではなくて「則子は私の恋人だ!」と言い放つってところがいいですよね。ラブラブであるばかりでなく、クィアネスをきっぱりと肯定してみせる、面白いオチだと思いました。その他のお話も、多少ご都合主義的なところはあるものの、全体的にえちくてラブくて可愛い物語だと思います。

ただし、Hシーンで「いや」(ちなみに『いや』は2回言ってます)「こわいです」と言う則子に安直に「大丈夫だよ…則子ちゃん…安心して…」と言うだけで平気で行為を続行する先輩の姿にはちょっとがっかり。女性の「ノー」を、きちんと真意を問うことすらせず一瞬で「実はイエスに違いない」と決めつけてしまうのって、すげえ身勝手だし暴力的だと思うんですよ。せっかく女のコ同士の話なのに、突然こんなセクハラ男またはレイピスト的な価値観が出てくると、個人的には非常にがっくりきます。これさえなければ、もっと良かったのになあ。

「MM」について

「MM」(全6話)は、エルフ耳少女「レイファ」と獣耳少女「ルゥ」のラブストーリーです。「冷え切った体を裸で温めるうちになしくずしにセックス」とか「記憶喪失になったルゥに『体で思い出させる』とか言ってセックス突入」みたいなテンプレ展開が多いところはご愛嬌。ちょっとロリ入った絡み絵はどれもエグさがなくて可愛いし、おまけにしっかりエロいと思います。最終話のオチも愛にあふれたハッピーエンドで、良かったです。

あと、非常に面白いのが、ルゥに透明ちんこが生えること。消しの都合で透明なんじゃなくて、最初から「興奮すると透明のものが生える」という設定なんですよ。輪郭線すら描かれないそれを刺激されて悶えるルゥの図とかも出てくるんですが、一種異様なエロさがありますねあれは。キャラクタになんか生えるのを嫌う百合好きさんは多いと思いますが、これならOKって方もけっこういらっしゃるのではないでしょうか。

ただ、この作品も「イヤよイヤよも好きのうち」展開が見られるところがちょっとマイナス。これはルゥとレイファではなくて、彼女らをつけ狙う女盗賊キャラのしわざなんですが、痛がる相手に無理やり指突っ込んで、なぜか相手はそのうちよがり出して女盗賊を好きになってしまうという謎の展開なんですよ。何すかこの古くっさい「女なんてやってしまえばこっちのもの」パターンは。女のコ同士のラブストーリーで、わざわざこんなヘテロ男性(の一部)の価値観を再生産しなくても、と思うんですが、こういうのって結局そうした神話をなぞって興奮したい読者に向けたサービスなんでしょうかね?

まとめ

ロリっぽい絵柄は可愛いし、基本的にラブラブ仲良しストーリーなところはいいんですが、ところどころで「イヤよイヤよも好きのうち」「やってしまえばこっちのもの」という、男性にとって都合のいい発想が安易に再生産されているところが気になりました。エロ漫画ではありがちな展開だとは言え、タチの側がそういう価値観を盲信しているというのは、まるで少女の皮をかぶった男性がハァハァしているように見えてしまって個人的には合いませんでした。この手の価値観をどうとらえるかによってかなり評価が分かれる作品だと思います。