石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ラブタンバリン(1〜2)』(後藤羽矢子、大都社)感想

ラブタンバリン 1(紙とダイヤモンド) (ダイトコミックス)

ラブタンバリン 1(紙とダイヤモンド) (ダイトコミックス)

ラブタンバリン 2(花と琥珀) (ダイトコミックス)

ラブタンバリン 2(花と琥珀) (ダイトコミックス)

クィアでナイスな百合エロ漫画

うっわー、いいなあこれ! ネットでは「百合とは思えない」「百合好きにはキツい」なんていう感想も見かけましたが、読んでみたらばっちり女性同士の愛でみっちみちの素敵な作品でしたよ! ものすっごく好きです、これ。たまらん。読んでよかった!

この漫画の舞台・惑星ラウルスでは住人のすべてが女。ラウルス人は3か月に1度のメールデイ(男性体になる日)によって子孫を残すので、効率よく妊娠するためにフリーセックスを規範とする文化がある、という設定です。この漫画をして「百合じゃない」とおっしゃる方は、たぶんメールデイを迎えたキャラと女性キャラとのセックスシーンがお気に召さないんだと思うんですが、あたしの目にはどう見てもこれ、女のコ同士のセックスにしか見えませんでした。だって中身が女のコなまま、単に体という「器」が男性化してるだけなんですもん。メールデイ以外の普段の女性同士のまぐわい(これもけっこう出てきます)と同じぐらいラブラブイチャイチャエロエロなんですもん。百合でしょうこれは(とあたしは思うぞ)!

『ラブタンバリン』の面白さその1:愛とぷに感

メインカップル「ベス」と「リラ」の愛の深さがよくてよくて。フィメール(女性体)同士であろうと片方がメール(男性体)化していようと、ふたりの愛とセックスはそれはもう熱くて甘々で、たまらんです。ぷに感のある優しい絵柄に合った、切ないほどのラブが詰まったお話だと思います。特におすすめなのはふたりの出会いのエピソード「紙とダイヤモンド」(1巻)と最終話「花と琥珀」(2巻)なんですが、4ページの短編「むつごと」(2巻)なんかもえちくて切なくていいですよー。

『ラブタンバリン』の面白さその2:ひとつの規範を絶対視しないこと

この漫画で非常に面白いのは、ひとつの性規範を絶対視せず、さまざまな性愛のかたちを等価に扱っていること。たとえばベスとリラは、フリーセックスが自然とされるラウルスでわざわざ「結婚」というモノガマスな形式を選んだマイノリティとして描かれているんですが、この漫画はそこで「モノガミーこそ最高、ポリガミーはダメ」みたいな単純なモノガミー礼賛には傾いていきません。そうではなくて、モノとポリの両方のよい点と悪い点をきちんと描き出し、「モノでもポリでも後悔しない愛し方をすることが大事」というスタンスを保っているんですね。そのバランス感覚やよし。

また、3ヵ月に1度のメールデイがあるからと言って、「男性と女性で行うセックスこそ本物」みたいな阿呆なイデオロギーも存在しません。フィメールのまま同士でのセックスの快楽やすばらしさも丹念に描かれる上、女性体同士で裸で抱き合いながら

あっ…あたしは 今…こうやって抱き合ってるのだって……充分セックスだと思う…けど……

なんていう場面(2巻p131)もあったりしますからね。さらにこの漫画では、メールデイのラウルス人を、「男のなりそこない(=地球人の『本物の男』の方が上)」と貶めることもありません。地球人男性のキャラをして「あんなに幸せそうなら自分(地球人)の出る幕はないな」と言わしめているシーン(2巻p112)から、それは明らか。まとめると、これはモノガミー規範・異性愛規範・性別二元論などを軽やかに解体しつつ「愛」を描くという離れ業をやってのけている漫画なんであって、そこが非常に面白いと思います。

単純に読者に迎合するんなら、一般ウケしやすいモノガミー至上主義や異性愛中心主義を盲目的に賛美しとけばてっとり早いと思うんですよ。んで、地球人男性に「やっぱりホンモノの男がいいんだろうっ!」とでも言わせてハーレムセックスのひとつもさせとけば、エロ方面のニーズもそれなりに満たすことができたと思うんです。そういった安直な道に堕することなく、「人を愛するとはどういうことか」というテーマを最後まで真摯に追いかけていくこの作品が、あたしは好きで好きでたまりません。

その他:体が男女でありさえすればヘテロセックスなのか?

あたしはこれ、違うと思うんですよ。体という器がどうあろうと、中身が女性同士なら同性間セックスでしょ、と思います。というわけで、ちんこが生えていようと射精しまくっていようと、ベスとリラのセックスは百合エロにしか見えませんでした。ただし、もっと言ってしまうと、この漫画を読んでいると人間をいちいち「男」と「女」に分けること自体がアホらしくなってきてしまうんですよね。性別は体だけで決まるものでもないし、ぱっきり二種類に分かれるものでもない、そんなことより目の前の大事な人と愛し合うことの方が大事じゃーん、というごくあたりまえのことに気づかせてくれる素敵なクィア漫画だと思いました。

まとめ

さまざまな規範を軽やかに飛び越えて愛とエロをがっつり描き出す、素敵にクィアな漫画です。主人公ベスとリラの甘やかな愛を楽しむもよし、優しくかつ濃厚なベッドシーンに萌えるもよし。ちなみにテレホンセックスやディルドによる自慰なんかも出てきて、エロ方面はなかなかにバリエーション豊富です。ちんこや男性の体を見るだけで拒絶反応が出てしまう方にはおすすめしませんが、そうでなければぜひご一読を!