石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『シスコなふたり(1)』(後藤羽矢子、双葉社)感想

シスコなふたり 1 (アクションコミックス)

シスコなふたり 1 (アクションコミックス)

シスコン姉妹+男1名、微百合でポリアモラスなコメディ

「カメラマン遠野裕(♂)がひとめぼれした高山麻衣子はお姉ちゃんラブの超シスコン娘。姉の椎子はその恋を応援するも、自分も遠野に惹かれ始めてしまう。一方遠野も妹ばかりか姉をも好きになってしまい、なしくずしに3人でつきあい始めて同居まですることに……」という、シスコン+ポリアモリーな三角関係を描いたラブコメです。

ちなみに1巻表紙絵だけを見ると左側のロリぷに少女が妹に見えてしまいますが、実際は逆。左側が見かけによらず策士でしっかり者の姉・椎子で、右側が美人なのに度を越したシスコンの妹・麻衣子です。麻衣子は椎子を抱きしめたりキスしたりカワイイと連呼したりと、そりゃもう大変なことになっています。ちなみに椎子の方も、一皮向けば相当なシスコン。ただし、これは恋愛感情というより「重度のシスコン」状態なので、百合/レズビアニズムを打ち出した作品を求めるなら、同作者さんの『プアプアLIPS』(竹書房)を読んだ方がいいかも。『シスコなふたり』は、あくまで「シスコンが男女の愛を超えて頂点に君臨する奇妙な三角関係」を楽しむ漫画だと思います。

ハーレム漫画じゃありません

あらすじだけ読んで「結局男ウハウハのハーレム漫画かよ!」とお思いになった方に注意。逆です。3人でつきあっているとは言え遠野の立場はえらく低く、ヒエラルキーの最下点。麻衣子と椎子によると、

麻衣子「あたしも遠野さん好きです でも一番はお姉ちゃんで…その次は自分のお店で 次が死んだお母さん 遠野さん四番目かな」

椎子「あたしも遠野さん四番目に好き」

という状態(p60)です。上から四番目の存在に、ハーレムも何も。さらに、3人でのつきあいに関しても、麻衣子いわく(p84)

「あたしたち三人でいる時が…二番目に幸せなんです」

つまり、要するに一番の幸せは「姉妹が二人で一緒にいること」だったりするんですよね。というわけで、遠野の立場は「ウハウハのハーレム」どころか「シスコンの壁に勝てなくて苦悩するけなげな人」だと思うんですよ。そこが気の毒でおかしくてかわいくて、この漫画の最大の見どころになっていると思います。

ノンモノガマスな面白さ

この漫画で非常に面白いのは、3人でつきあうこと自体を誰も悩まないこと。「複数とつきあうなんてフケツ!」みたいな変な決めつけがない風通しのよさが、とても楽しかったです。あと、最初は麻衣子のシスコンを問題視して「彼女をまっとうな恋愛に目覚めさせる!!」とか言ってた遠野が、いつのまにか「オレがしっかり二人を受けとめてやらないと!!」と変化していくところもいいなと思いました。

三角関係を描くラブコメというと、たいていは1対1のつきあいを至上のものとした上でのすったもんだが描かれると思うんです。でも『シスコなふたり』はモノガミーを全然絶対視しないのに、ちゃんとドタバタが成り立っている。そこがとても新しいし、面白いと思いました。

まとめ

百合というよりポリアモリー寄りのお話ですが、面白かったです。姉妹の度を越したいちゃいちゃラブラブが楽しいし、シスコンに勝てずに苦悩する遠野の姿もかわいらしく、またモノガミー規範を飛び越えた三角関係という新しさも素敵でした。