石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『とわ缶』(大島永遠、実業之日本社)感想

とわ缶―大島永遠作品集 (マンサンコミックス)

とわ缶―大島永遠作品集 (マンサンコミックス)

女子高生同士のラブストーリー……のはずが、単なるヘテヘテ共依存ごっこ

収録作「Rosehip DIary」(全3話+番外編1話)がいちおう女子高生同士のラブストーリーなのですが、どこをどう見ても「男×女」のヘテヘテストーリーにしか見えませんでした。タチ役の外見や口調がまるで男性ホストみたいであること、そして彼女の抱えているトラウマが「父の代役として母に愛されたかった」というものであること、などがその原因です。要するにこれは百合というより女性同士による「ヘテロカプの共依存ごっこ」なのであって、ヘテロノーマティブな関係がお好きな方にしか向かない作品なのではないかと思います。

タチ役がまるで男性ホスト

「Rosehip Diary」の舞台はある学校の体操部。この部には後輩が先輩の付き人(パートナー)となって性戯を通して「教育」されるというしきたりがあり、主人公「ちとせ」は1年生の「由希」を指導することになります。

が、この由希のキャラクター造形が、クッサイ男性ホストそのものなんですよ。短い髪に高い背、語尾の微妙な男言葉、わざとらしい身のこなし、そして

…もっと別の関係を望んじゃダメかな? ……ね? 春風の妖精さん…

のようなスカした台詞(p. 94/しかもこれ、気取りまくって相手の手の甲にキスしながらのセリフなんですよ!)、セックスは当然タチしかしない等々、あまりの徹底ぶりに最初は「ネタか?」と思ったほどです。しかしどうやらネタではなかったらしく、物語は由希をタチ役として順調に進んでいくのでした。ここまで行くと百合というより「ヘテロ女子(の中でもかなりお脳の弱い人)による『理想の男』上演会」にしか見えなくて、あたしには合いませんでした。ちなみに最も萎えだったのは由希がちとせとのセックス中に口走るこの台詞(p. 106)。

キミの中の女らしさ(フェミニテ)の虜なんだ…!

ぐえー。自分のわざとらしい男らしさに酔ってるだけじゃなく、相手にまで「女らしさ」を求めて興奮してるんですかこの女。こういう「男」「女」の性別役割分業大好き系のお話を、あたしは百合とは呼びたくないです。いや、あたしが呼びたくないだけで、他の人が何と呼ぼうと勝手ではありますけど。

タチ役のトラウマは「母の夫になりたかった」こと

第3幕で、由希の両親が昔別居していたらしいことが明かされます。幼かった由希が母に愛されるために父の代わりを務めようとして「忌々しい」と拒絶されていたことも。で、それ以来由希は「愛という名の狂気に支配され」(p. 139)、「永遠の居場所」(p. 155)を求めていたという設定らしいのですが、だとするとこの人、ちとせに母親の代わりをさせて過去のトラウマを克服しようとしているだけじゃないですか。そりゃ、男気取りの小芝居もするわな……。

もっと言ってしまうと、共依存でしょうこれは。「過去に破綻した人間関係を再構築し、相手を操作して今度こそ自分の気に入る関係にしようとする」という、アル中の妻によくあるパターン。こういうのは「愛」ではなくて単なる「関係嗜癖」だとあたしは思います。なので、必然的にこの話も、同性“愛”というより、「不健康な人(由希)がご都合主義的に共依存的欲求を満たされて喜ぶお話」にしか見えませんでした。

まとめ

女性同士のエロシーンこそ豊富ですが、わたくしには百合/レズビアン話には全然見えませんでした。人を選ぶ本だと思います。