石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『黒鉄ぷかぷか隊(1)』(栗橋伸祐、イカロス出版)感想

黒鉄ぷかぷか隊 VOL.1

黒鉄ぷかぷか隊 VOL.1

スラップスティック軍隊百合コメディ

乗組員がほとんど女のコな通商破壊艦「畝傍(うねび)」を舞台とする、ドタバタ海戦百合コメディ。面白かったです! なんと言っても畝傍のクッキーこと「九鬼副長」(♀)に恋する寡黙な「間宮内務長」(♀)のいたいけさが光っています。同じくクッキーに惚れる独軍や英軍の乙女たちもそれぞれ個性的でよかった。あと、単なる百合的いちゃいちゃ「だけ」のお話ではなく、男好きなキャラや熱い友情キャラなんかも配置されていたり、海戦シーンが迫力たっぷりだったりするというバランスの良さもすばらしかったです。主人公(九鬼)がドストレートな軍隊百合という点では『ストライクウィッチーズ』小説版に多少似ていなくもないのですが、みょーな偏見の再生産が皆無だという点において、こちらの方が断然勝っていると思います。ちなみにセックスこそ出てきませんが、女のコ同士のキスシーンは複数回ありですよこの漫画。

間宮内務長が最高

もー、可愛くてねー、この子。ストイックな居合いの達人でありながらクッキーにはべた惚れで、何かと妄想を炸裂させてはひとりで頬を赤らめているところとか、たまりません。いざというときクッキーを守り抜く鬼神のごとき強さにも、惚れ惚れしました。それでいて肝心の相手には少しも想いが通じていない不憫さも泣かせます。このけなげな間宮の存在だけで、百合漫画としては100点満点をつけたいぐらいです。

個性的な他キャラたち

クッキーに惚れる独軍の潜水艦乗り「ニナ」が強烈なニオイフェチだったり、同じく九鬼副長ラブなイギリス駆逐艦長「アン」がキス魔だったりと、キャラクタの性格づけがはっきりしていて楽しかったです。ふたりの対立を使って過去の因縁をそれとなく見せていくあたりも、うまいなと思いました。個性や主体性に欠ける乙女キャラが予定調和的にベタベタするだけの百合ものとはまったく違う、鮮烈な面白さです。

バランスの良さと偏見のなさ

たくさんの女性キャラが必ずしも全員百合ん百合んな人というわけではなく、男大好きなセクシーお姉さんとか、恋愛というより熱い友情でつながった女子ペアとかもきっちり配置していくというバランスの取り方がみごとでした。ミリタリーものらしい迫力あふれる海戦シーンもお話をひきしめていて、よかったです。

あえて難点を挙げるとすれば、「九鬼がドストレートすぎてなかなか恋が進展しない」ということぐらいですが、同じく軍隊百合ものである『ストライクウィッチーズ』小説版とは違い、妙なヘテロノーマティヴィティー(異性愛規範性)の押し付けが皆無なんですよこの作品。『黒鉄ぷかぷか隊』においては、九鬼のストレート性はマジョリティの偏見というよりあくまで本人の「激ニブ」(p. 18)具合によるものであり、特に間宮の実らぬ恋を悶々と盛り上がらせるための仕掛けとして嫌味なく機能しています。こういった描き方であれば、百合漫画におけるストレートな主人公というのもじゅうぶんアリだと思いました。

まとめ

可愛くていたいけでハチャメチャで、そのくせ海戦は大真面目にやってのけるというナイスなミリタリー百合漫画。同性愛への変な見下しもなく、楽しく読めました。おすすめです。