- 作者: 瑞智士記,高橋武久
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2009/01
- メディア: 新書
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女兵士「ライラプス」と少女「ハヤ」との物語(非百合? 微百合?)
2030年の内戦地帯を舞台とする、女兵士「ライラプス」と少女「ハヤ」との物語。血なまぐさく悲痛なストーリーの中で、ラストの詩情が静かに光っています。いわゆる百合ものとしてとらえるにはかなりの妄想補完が必要ですが、ライラプスとハヤの護り護られる関係は悪くないです。実在の銃器を使ったバイオレンス・アクションが多めのお話でありながら、指輪やギリシア神話などの要素をうまく使ってストーリーをつないでいくというスタイルも斬新でした。いくつか整合性に疑問を覚える箇所も残るものの、全体としてはとても面白かったです。
悲痛なストーリー、詩のような結末
主人公ライラプスは、5歳のときから軍事訓練を受けてきた女兵士。任務中に失った左腕の移植手術を受けた後、自分にそっくりな少女ハヤと偶然出逢うことになります。このふたりの背負っていた運命がお話の主軸となっていくのですが、内戦地帯が舞台であるだけに凄惨な描写も多く、グロ耐性がない方にはちょっと厳しい部分もあるかもしれません。なまぬるい予定調和を許さない結末もしかり。でも、だからこそ、そこを越えてたどりつく最後の2段落が、いっそう胸を打つわけです。シビアなストーリーと響き合う、まるで詩のように清冽なこの11行が、ほんとうによかったです。
ライラプスとハヤの関係
ネタバレを避けるため詳しくは言及しませんが、このふたりは恋愛でもなければ単なる友愛でもない、ある特別な関係にあります。ふたりともそれぞれ、好きな男性もいたりします。なので、この関係がいわゆる「百合」かどうかと問われたら、判断は非常に難しいです。敢えて言うなら、「ほとんど非百合で、ときどき微百合」な位置にある物語かと思います。
ただ、同じベッドで寝ながらハヤがライラプスの手を握ってくる場面や、壮絶な状況下で互いに護り護られるシークエンスなど、恋愛云々抜きでもぐっとくるところがすごく多いお話なんですよね。あと、表紙がすべてを物語っているところに注目。最後まで読んでからもう一度表紙を見ると、そこに込められた意味に心臓をわしづかみにされてしまいます。百合/非百合にかかわらず、女性キャラクタ同士の強くて深い結びつきを描いた小説として白眉であることは間違いないでしょう。
バイオレンスと神話の匙加減
オウィディウスの『変身物語』が重要なモチーフとして登場しています。血まみれの格闘シーンの間にクロスカッティング的に『変身物語』の一節をはさんでみせるところなど、とても面白かったです。また、「決して抜けない指輪」という設定もたいへん印象的でした。指輪ってただの装飾品ではなく、つながりとか、輪とか、結び目とかの象徴でもあると思うんですよ。そんなわけでライラプスの左手の指輪は、二重三重の意味でハヤとの関係の暗示になっていると思うんです。このような仕掛けが、物語を単なるバイオレンス・アクションとはひと味もふた味も違うものに位置づけていて、そこがとても斬新ですばらしかったです。
ただし、このへんはちょっと
赤ん坊でも平気で撃とうとするライラプス(p. 129)がラシドの煽り文句ごときで簡単にショックを受ける(p. 47)のは妙だとか、テロリストが捕まったとたんに説明係よろしくべらべら情報をしゃべりすぎだとか、ライカの勘がよすぎるんじゃないかとか、多少違和感をおぼえるところもないではないです。あと、「死と隣り合わせの、凄絶な水上訓練」(p. 55)を受けるほどの特殊部隊員なら対尋問訓練ぐらいはやっているはずだと思うんですが、そのわりにライラプスが「嘘を吐くときはいつも顔を伏せる」(p. 185)という甘さを残しているところもちょっと納得いかないものが。
まとめ
恋愛ものではないにしろ、ふたりの女性の強い結びつきに胸打たれるシンボリックなバイオレンス・アクションです。多少整合性に欠ける部分もあるにはありますが、清冽にしてショッキングなラストシーンのよさはそれを補って余りあると思います。ていうか、読み終わったのは昨日なのに、これを書いてる今もまだハンマーで頭を横殴りにされたような衝撃が抜けません。すごい小説だわ、いろいろと。