石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

小説『ヤングガン・カルナバル・スペシャル―ファイトバック・ホンコン』(深見真、徳間書店)感想

ヤングガン・カルナバル・スペシャル―ファイトバック・ホンコン (トクマ・ノベルズEdge)

ヤングガン・カルナバル・スペシャル―ファイトバック・ホンコン (トクマ・ノベルズEdge)

濃くて楽しいインターミッション

同性愛者がフツーに出てくる痛快バイオレンスアクション小説の第11巻です。前巻でお話に大きな区切りがついたこともあってか、今回はインターミッション(幕間)的な短編アソートとなっています。どの短編もめっちゃくちゃ濃くて、きわめて楽しかったです。以下、各話の簡単な感想など。

「典型的未成年者の殺人者」

塵八が主役の1編。短い文体で読み手の脳裏にガンガン映像を浮かばせるといういつもの手法が冴え渡っており、ショットガンでドアを破りながら突き進む最初の仕事からして、小気味よいアクション映画の冒頭場面そのものです。チェ・ミナにもドキドキさせられたし、クライマックスでの塵八のあの判断にもあっと言わされました。

「ファイトバック・ホンコン」

毒島将成視点での毒島・虚・ソニアの過去話です。毒島さんは前から好きだったんですが、これ読んでますます好きになりました。ストーリーそのものも、コミカルな部分とスリリングな部分との取り合わせがすごく楽しかったです。また、毒島のこんな独白(pp. 68 - 69)も、しみじみとよかった。

ブラジルから日本にやってきてたまにテレビを見ると、いわゆる「オネエ」「オカマ」といったゲイの特徴を誇張した「キャラクター」が出てくる。相手が男とみれば欲情し、甲高い声でぎゃあぎゃあわめいてナヨナヨ。そういったゲイがいないわけではないが、テレビでは他のタイプが登場することはほとんどない。他のタイプが出るとしたら、せいぜいマッチョタイプの過剰な男らしさを売りにするゲイだろう。女言葉を使わない、誰にでも欲情するわけではない、ごく普通のゲイを出すと法律か何かに触れるのだろうか?

こういう台詞がごく当たり前に出てきちゃうあたりがYGCのいいところですよね。

「ブーゲンビリアを、愛をこめて」

こともあろうにあの弓華がキリスト教系お嬢様学校に潜入するというお話。当然、ありがちな脳内お花畑チックな女子高百合話とはひと味もふた味も違っていて、面白かったです。単に弓華のかっこよさを描くだけで終わらず、きっちりと毒がきかせてあるところがすごく好き。

「平等院将一の一番長い一日」

将一の卒業式当日のお話。ガンアクションから王道ヤクザ映画チックな戦いへ、そしてほろ苦い青春物語へとめまぐるしく切り替わっていくストーリーが楽しいです。YGCの魅力というとアクションばかりが取り沙汰されがちですが、実はこの「ほろ苦さ」もすごく大きなファクターなんじゃないかとあたしは思います。

「エピローグ 折れた矢」

再び毒島が主人公の話。虚やソニアとの三角関係(と気づいていたのは毒島だけなのかもですが)が破綻した頃の物語です。苦くて痛くて大変に危険で、でもどこか甘酸っぱいストーリーでした。

「ボーナストラック キャビン・フィーバー」

ドラマCDのミニドラマのノリをそのまま持ち込んだ、爆笑ものの番外編です。おなじみの皆様の「一種の社員旅行」を描くものなんですが、最終的にいいところをかっさらっていくのがあの人だったり、その後女風呂(の脱衣所)と男風呂であんな世界やこんな世界が展開されたりと、腹筋がプルプルするぐらい笑わされました。

ちなみに白猫さんが脱衣所でアリサに「覚えておくといい」と言ってたあの内容はとっても正しいと思います。あれはたぶん世界の真理。

まとめ

一言でたとえるなら「ゴージャス幕の内弁当」とでもいった感じの1冊でした。ひとつひとつの具材がこんなにリッチでおいしくていいんだろうか、ああ全部食べちゃうのもったいない! と身悶えしつつ食べ進む幕の内弁当ね。ちなみに各話の扉絵や、全編を通してたっぷりと散りばめられた映画ネタなんかもたいへんに美味でした。いやー楽しかった。満足。