石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『飴色紅茶館歓談(1)』(藤枝雅、一迅社)感想

飴色紅茶館歓談 (1) (IDコミックス 百合姫コミックス)

飴色紅茶館歓談 (1) (IDコミックス 百合姫コミックス)

紅茶館が舞台の、心温まる恋愛譚

喫茶店「飴色紅茶館」のアルバイト女子高生「琴織さらさ」と、店のオーナー「犬飼芹穂」との心温まる百合ラブストーリー。淡々としているようで、その実きちんと恋愛色を押し出した作品であるところがよかったです。内容のみならず装丁にまで漂う、優しくてスタイリッシュな雰囲気も楽しめました。ただし、限定版特典のドラマCDは、人によって合う合わないが分かれるかも。

淡々としているようで、実はきちんと「恋愛」してます

序盤のオサレ&メルヒェンな雰囲気から、「友情以上恋愛未満」的スタンスで小綺麗にまとまるお話なのかと思っていたら、ぜんぜんそうじゃないことに驚きました。第1話でさらさがいきなり

コジーさんがお仕事だけで一緒にいるんじゃないことは いつか気づいてくれるのかなー

とつぶやく場面(p. 24)だけで、もうこれはラブストーリーだとわかりますし、なんと言っても第2話ラストの芹穂の台詞がすごい。それはつまり、その台詞の元となった老婦人2人を出してくるところがまずすごいってことなんですけれども。老婦人たちの会話に、「これは友情って意味なのかしら、いやいややっぱりこのニュースみたいな意味なのかしら」とドキドキしながら読んでいったところに芹穂のあの殺し文句ですもん、完全にやられました。

ちなみに連載前に描かれたという「飴色紅茶館歓談 First Flash」のラブさも、本編に負けていません。ハルの作った「天の川」のジンクスが伏線となり、クライマックスの見開き1枚絵で鮮やかに生きてくるところのカタルシスと言ったら、もう。本編の方もそうですが、口説き文句が紋切り型じゃないところが実にいいんですよ。

優しくスタイリッシュな雰囲気について

ストーリーそのものの優しさと、白黒のコントラストがきいた美しい画面も良いのですが、それに加えて装丁のかもし出す雰囲気が素晴らしいです。ケーキのように柔らかな色合いの表紙には立体感ある白いレースのペーパーコースターの図案があしらわれており、限定版ドラマCDのジャケットは、絵をプリントしたチョコレートのような質感に仕上がっています。本の中身も外側も全部使ってこの紅茶館の雰囲気を伝えようという心配りが嬉しいです。手に取って少し読んでみるだけで、美意識の行き届いた喫茶店でおいしい紅茶を飲んでくつろぐときのような楽しさが得られる1冊だと思います。

ただし、限定版付録のドラマCDは……

ひととおり聴いてみましたが、

  • 漫画には出てこない「早乙女愛華」と「南城詩子」のあれこれを中心に据えたお話である
  • そのくせ、愛華と詩子の山場の後になぜかさらさ&芹穂のラブ話がしばらく続くため、お話の焦点がぼやけている
    • たとえて言うなら起承転承結、みたいな。
  • アニメ声がかなり強烈

などの点から、「お話の構成よりもさらさと芹穂のラブいちゃ重視で、なおかつアニメ声に耐性がある人でないとあまり合わないかも」という印象を持ちました。ただし、前述のようにジャケットのデザインがとても美しいので、それを目当てに限定版を買うという手はアリだと思います。

まとめ

はっきりと恋愛色を打ち出したストーリーラインがとてもよかったし、さらさや芹穂の決意を指し示す台詞回しに気が利いているところも素敵でした。お話全体の雰囲気をきめ細やかに表す装丁もすばらしいと思います。ただ、限定版特典ドラマCDだけは、ちょっと人を選ぶかも。限定版は既に品薄で中古価格も上がってきているようなので、自分のニーズを考えて選ぶと吉だと思います。