- 作者: 秋山はる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/08/21
- メディア: コミック
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ハラハラしたけどなんとかなった……
元アイドル「雪乃」と売れない作曲家「節子」のラブストーリー、第3巻。読むのが怖くて発売日から数日間逡巡していた1冊です。読んでみた結論としては「ハラハラしたけどなんとかなった」というところなんですが、もうほんと心臓に悪かった……。いや、厳密に言うと、心臓に悪いのは主に2巻ラスト(から来る勝手な憶測)の方であって、3巻はむしろ安心して読める展開になってるんですけどね。3巻では、雪乃のあの一件をごまかさずに描くことで、むしろメインカップルの恋愛がより地に足がついたものになっている気がします。あと、後半から「時の流れ」というか「万物流転」みたいなテーマが垣間見えているところも面白かったです。たぶん今後、これが雪乃の成長と絡んでストーリーの軸のひとつになっていくのではないかと。
2巻ラストから続くあのエピソードについて
結論を先に言うと、「『オクターヴ』におけるあのエピソードは入れて正解だった、いやむしろないと困る」とあたしは思っています。雪乃のあの体験は、一種の通過儀礼のようなものだと思うんです。すくなくとも現代日本に生きるかぎり、避けては通りがたい通過儀礼ね。「そんなもの経験しなくても生きていける」と言い切れるほどに、今の日本社会は異性愛中心主義から自由になってはいません。女性同士の関係を描く上で、そこをごまかさずにスパッと描ききってしまったというのが、この作品のすごいところだと思います。ウテナの後半を初めて観たときの驚きと感動を、ちょっと思い出したりしました。
また、この展開を契機とした雪乃と節子の変化もよかったです。節子は「余裕ある大人(に見える人)」からただの恋する女になり、雪乃もやはり、「鬱屈した日常の中、ステキな人にあこがれる少女」からただの恋する女になっていて、ふたりの熱情がかっちりと噛み合ってきています。おかげでますます地に足がついたラブストーリーとなっており、だからこそ後半のいちゃいちゃには1〜2巻よりなおぐっと来るものがありました。
あと、余談ですけど、雪乃のモノローグがよかった。うんうん、あれは驚くよね。頭で「これが“フツウ”なんだ」(p. 56)とわかってはいてもね。
時の流れ、あるいは万物流転について
ここ、すごく面白かったです。まず、これまで立ち止まって現実逃避していた雪乃の時を動き出させる仕掛けの一環として、節子ではなくミカちゃんや鴨ちゃん、真利などの台詞が巧みに使われているところがよかった。「恋のおかげで/節子のおかげですべてがうまくいくようになる」みたいな恋愛万能主義チックなところがないんですよ。モチーフとしてのクリーニング屋の使い方も、なんだか映画的でよかったです。蛍光灯の話なんかもそうですが、視覚を使ってあざやかに訴えかけてくるところに圧倒されました。また、『動物のお医者さん』の名台詞がさりげなく使われているところも楽しかったです。「晴れ晴れとしたさびしさ」を知ってほんの少し成長した雪乃が今後どうなっていくのか、興味しんしんです。
まとめ
2巻最後からの怒濤の展開が、「終わりよければすべてよし」的に綺麗に収束していて、安心しました。百合漫画でああいう展開を入れることに拒否反応を示す向きもあるでしょうが、あたしはむしろあのエピソードのおかげでお話の奥行きや説得力が増していると思います。いろんなものから逃避していた雪乃の時間が今回少しだけ動き出しているところも面白く、今後の展開が楽しみです。