石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ストライクウィッチーズ 乙女ノ巻(3)』(南房秀久、角川書店)感想

ストライクウィッチーズ  乙女ノ巻3 (角川スニーカー文庫)

ストライクウィッチーズ 乙女ノ巻3 (角川スニーカー文庫)

  • 作者: 南房秀久,島田フミカネ,上田梯子,ProjektK
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/08/01
  • メディア: 文庫
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低年齢層向けキャラクターノベル

人気アニメ『ストライクウィッチーズ』のノベライゼーション第3巻。「アニメ第9話から最終話までを網羅した」(あとがきより)内容なんだそうですが、ストーリーはともかく文体がケータイ小説みたいで、大人が読むにはきついものがあります。オリジナル部分も今ひとつ。2巻ラストからの展開がただの場つなぎでしかないことにもがっかりですし、百合っぽさがゼロどころかマイナスに転じているところも残念でした。

文体がまるでケータイ小説

擬音語や擬態語の使い方がいかにも「ふだん小説などを読み慣れていない若年層向け」です。以下、例をいくつか挙げてみます。

ウウウウ~ッ!
サイレンが鳴り響いた。

バンッ!
クリップボードが机に叩きつけられた。

ジャキン!
「これは!」
目を見張る芳佳。

このように、かの有名な「『ガッシ!ボカッ!』アタシは死んだ」を思わせるレトリック満載。さらに、1~2巻と同じく、ワンセンテンスごとに改行して行間スカスカというスタイルも堅持されています。本を読まない層に買わせるための戦略としてはきわめて正しいのでしょうが、活字好きが読むにはたいへんつらいものがあります。

オリジナル部分のここが変

オリジナルエピソードとして、芳佳の親友みっちゃんが主人公のインターミッションが3話設けられています。が、少なくともそのうち2話は、小説というより単なる「キャラクター設定の羅列」。本編中でキャラを紹介しきれないが故に、芳佳の手紙またはみっちゃんのモノローグという体裁で延々とキャラ設定を読み上げさせたのではないかと邪推したくなります。だって、こんな台詞、中2女子が授業中の独り言(一応、子猫相手に喋っていることになってはいますが)で言うか?

「……リネット・ビショップ軍曹。ブリタニア空軍第11戦闘機集団610戦闘機中隊所属。使用機種はスピットファイアMkIX。使用武器はボーイズMk1対装甲ライフル。遠距離攻撃のエキスパート。誕生日は6月11日。身長156センチ。母親と長姉もウィッチという超一流の家系で、八人兄弟姉妹の真ん中。出身はロンドンで、父親はかなり裕福な大商人。引っ込み思案でうっかり屋さんだけど、本当はちょっと頑固」

「どっかイッちゃってるアキバ系の『ストライクウィッチーズ』マニアがアニメグッズ店で虚空を見ながらブツブツ呟く台詞」とでもいう設定ならともかくさー。あの怪作レズゲー『ホリゾーンの上~預言の書~』序盤で、主人公がケルヌンノス相手にひたすらゲーム内の世界観を説明し続けるシーンを見たときと同じぐらいの脱力感に襲われました。

アレはただの場つなぎでした

2巻最後のやや緊迫した展開は結局ただの場つなぎにすぎず、がっかり。たとえて言うなら「9番打者がヒットを打って上位打線につなげたかと思いきや、1番から3番まで全員三者凡退」みたいな物足りなさでした。ちなみにネウロイとのあれこれについても消化不良感が漂いますが、こちらはアニメ第2期と連動したノベライゼーション(が、出るとしたらですが)で追求されるネタのようでもあり、とりあえずこの部分については評価を保留します。

百合部分はついにマイナスに

女のコ同士でキャッキャと胸を触り合ったりはしているんですが、言っちゃっていいかしら。ものすごくノンケくせーですよこの巻。

先日バイセクシュアル女性の親友と意見が一致したんですが、女のコ同士で気軽にセクハラするのって圧倒的に異性愛者に多いと思いんですよ。これが同性愛者/両性愛者だと、クローゼットな人ならセクシュアリティがバレるのを恐れてもっと慎重になるし、カムアウト済でも異性愛者(の一部)ほどには「女のコ同士の行為はカウントしない」という思想に染まれないものなので。

そんなわけで、個人的には、『乙女ノ巻(3)』でのキャラたちのじゃれ合いは「『男女間の行為>女女間の行為』という価値観をがっつり共有した異性愛者同士の乳繰り合い」にしか見えず、全然百合っぽいと思えませんでした。さらに言うなら、ペリーヌが坂本を車椅子に乗せるシークエンスのような、一部の文章のあざとさも萎え。あれで興奮できるのは、辞書でエロ単語引くだけでも悶えられる小中学生ぐらいでしょう。

まとめ

文体といい、レトリックといい、あくまでもふだん活字を読まない低年齢層向けのキャラ萌え小説だと思います。マーケティング的にはこれで正解なのかもしれませんが、「小説」として楽しむにはかなり苦しいかも。百合ものとしても、薄口を通り越してたいへんヘテロっぽいお話と化しているので、あまりおすすめしません。