石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『LOVE CUBIC』(谷村まりか、一迅社)感想

LOVE CUBIC (IDコミックス 百合姫コミックス)

LOVE CUBIC (IDコミックス 百合姫コミックス)

プラトニック百合漫画にして尿漫画、キャラ立てはやや弱し

女子高生3人の三角関係物語。主人公「遊佐実(ゆさみ)」の思い人「清菜(せな)」にはシスコンな妹「胡桃」がいて、遊佐実と胡桃とで清菜を取り合うというあらすじです。プラトニックなお話でありつつ全話に必ず尿シーンがある、というその特異性やよし。ただ、メインキャラ3人の性格づけが弱く、ヘアスタイル以外ではほとんど差がない人物に見えてしまうところが残念です。あと、血縁幻想にわりと忠実なところも個人的には今ひとつかなあ。

プラトニックなのに尿シーン満載

これはもうホントにすごかった。「ゆ、百合姫SってこういうのOKなんですか」と驚いてしまうぐらい。尿シーンのほとんどはおもらしネタですが、1箇所だけ、ある種の飲尿強制シークエンスも出てきます。百合で尿、というと、武藤鉄さんの『Squeeze』やぢたま某さんの『Super Love Potion』などが既にありますが、『LOVE CUBIC』がすごいのは「全年齢向けでもここまでやれる」という新たな地平を切り開いてみせた点ですね。尿属性のある方なら必見の作品かと。

キャラの個性は弱いかも

読んでいてときどきメインキャラ3人の見分けがつかなくなって混乱しました。ヘアスタイルなどはきちんと描き分けられているのになぜ、と自分でも不思議に思ったのですが、要するにこれはキャラたちの性格と行動パターンに大きな差が見受けられないからではないかと思います。多少の設定の差はあれど、実質的には3人とも「ウブくてヘタレで、何かというと頬を染めてもじもじ」という基本パターンをひたすら踏襲しているため、わたくしの貧弱な脳では「これは別人格」と認識しきれなくなる時がままあったようです。もう少しキャラごとの個性を打ち出した方が、お話の振幅を増す意味でもよかったのではないかと思います。

血縁幻想の扱いについて(以下ややネタバレ)

お話後半での、胡桃の、

…私とせなが本当の姉妹じゃなくて良かったでしょ これで遠慮なく私たちの間に入ってこれるもんね

という台詞(p. 144)になんだか違和感が。

この台詞って、「血縁関係>(女性同士の)恋愛関係」という前提がなければ出てこないものだと思うんです。でも、あたしはその前提は共有できないんですよ。というのは、姉妹百合であろうと姉妹じゃない百合であろうと、現代日本の「正しいセクシュアリティ」の枠からはみ出しているという点ではまったく同じ立場だから。以下、堀江有里著『「レズビアン」という生き方―キリスト教の異性愛主義を問う』(新教出版社)p. 98より引用してみます。

竹村は、「[ヘテロ]セクシズム」が近代社会で再生産しつづけているものは「異性愛一般」というよりも、ただ一つの「正しいセクシュアリティ」の規範であると述べる。「正しいセクシュアリティ」とは、「終身的な単婚(モノガミー)」を前提として社会でヘゲモニーを得ている階級を再生産する家庭内のセクシュアリティ」である。それは「次代再生産」を目標とするために、「男の精子と女の卵子・子宮を必須の条件とする性器中心の生殖セクシュアリティを特権化する」。そこでは同性間の関係性はもちろんのこと、「たとえ異性間のものではあっても、生殖セクシュアリティを否定する余剰としてのセクシュアリティ――家庭外の行為――も異端とみなされる」のである。[前掲書(引用者注:『愛について―アイデンティティと欲望の政治学』(岩波書店)を指す):三七―三八]。

そんなわけで、性別を問わず、きょうだい間の恋という時点で既に「正しいセクシュアリティ」規範からは逸脱してしまっていると思うんです。というわけで、胡桃の発言はあたしには「鼻くそを笑っていた目くそが、『私が目くそじゃなくて良かったでしょ』と発言する」というような意味不明のものにしか思えませんでした。つか、血縁があるってだけでそこまで関係性維持が有利になると思い込める根拠がよくわかりません。異性愛の関係だって、「相手に仲の良いきょうだいがいるから恋愛関係に持ち込めない」なんてことはないはずだと思うんですが、どうでしょう。

まとめ

評価が非常に難しい作品だと思います。「微エロな尿シーン満載の非18禁百合漫画」という新機軸には大拍手を送りたいと思いますが、漫画としてのキャラ造形やストーリーの組み立てには物足りなさを感じないでもありません。また、血縁幻想を共有できない人にはピンとこない部分もあります。ただしホモフォビアはまったくなく、全体としては「初々しいプラトニック三角関係もの」なんですよね。結論としては「尿属性がある人にはものすごくおすすめ。そうでない人には、マイルドな三角関係話がツボならおすすめ」といったところです。