石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

映画『Drifting Flowers(漂浪青春)』(※邦題は『彷徨う花たち』)感想

しみじみと胸にしみるレズビアン映画

『Spider Lilies(刺青)』のゼロ・チョウ監督による3話構成のレズビアン映画です。電車のシークエンスを使って3つの話を巧みにつなぎ、愛や自分の居場所を求めてさすらう主人公たちの姿を柔らかく描き出しています。レズビアニズムを扱いながら、単に女性同士の恋愛や官能だけを追って終わってしまう作品ではないところが好印象。中性的なレズビアンを複数登場させた点も、現実味があって面白いと思います。心の奥深くにしみじみと響いてくる、よい映画でした。

3話のそれぞれの感想など

1. 妹狗 May

8歳の少女メイが、ボーイッシュなアコーディオン弾きのレズビアン・ディエゴに恋をする物語。メイには盲目の姉ジンがいて、ジンもまたディエゴを愛し、ちょっとした三角関係が形成されます。メイの初恋のなんとも可愛らしい甘さと痛みがいいし、ふたりきりの姉妹をとりまく状況のつらさにもぐっときました。前作『刺青』もそうでしたが、この映画にも「家族」というアジア的なテーマが脈々と流れていて、そこが非常に胸を打ちます。レズビアニズムを子供(または青春)時代の一過性のものととらえない描き方もすばらしかったです。

2. 水蓮 Lily

認知症を患う初老のレズビアン・リリーと、そのゲイ友イェンとの友情物語。これはいいよ。老境のレズビアンを描いた作品として、『ウーマンラブウーマン』第1話と並ぶ傑作では。帰ってこない(おそらく亡くなっている)女性の恋人・オーシャンを待ち続けるリリーと、そんなリリーの妄想に根気よくつき合ってやるイェンの姿が切ないです。冒頭で描かれる、おそらくはイェンと偽装結婚をした若き日のリリーの姿や、ボケてもなお「父に知られたら困る」と同性愛関係を隠そうとする場面の哀切なども非常に印象的でした。イェンとリリー双方の孤独が鋭く描き出されているだけに、その中で互いの存在に見いだす慰めが宝石のように輝いています。

3. 竹篙 Diego

第1話で登場したディエゴがジンたちと出会う前のエピソード。まだ10代の彼女の、恋と自己受容の物語です。女の子でいるのは嫌、でも男にもなりたくない、ブラをつけるのも嫌というディエゴの悩みのリアル感がすごい。自分が何者なのかわからずに煩悶する思春期レズビアンの姿を優しいタッチで描いた良作だと思います。

電車というシンボルについて

『漂浪青春』という原題通り、この映画の主人公たちはみな、愛や自分自身の居場所を探してさまよう旅の最中にあります。場所と時間を切り替えて複数キャラの「旅」を追うこのお話が少しもごちゃごちゃしないのは、「旅」の象徴としての電車の使い方が巧いから。何度も登場する電車のシークエンスがストーリー全体を引き締め、交錯する3つのエピソードを上手に整理していると思います。

中性的なレズビアン像について

すべてのエピソードにちびダイクというかジャリタチというか、日本のレズビアンバーにも山ほどいそうなボーイッシュなレズビアンが出てくるところが面白かったです。
ちなみに日本のWebマガジン「Tokyo Wrestling」のインタビューで、ゼロ・チョウ監督は以下のように語っています。

『刺青』の竹子を演じたイザベラ・リョンのような、見た目はフェミニンだけれど、態度がボーイッシュなレズビアンを登場させたかったのですが、今回はリアル感を徹底的に出したくて、もともと中性的なルックスの女性でレズビアンでもある方を起用しました。また、メインキャラクターのディエゴは胸をつぶすなど、明確なタチなキャラクターに仕上げたかったんです。台湾では、ディエゴ役のような中性的な女性が多いからです。

すごくわかる、と思いました。フェム−フェムのカップルは見た目に美しいし官能的でもあるけれど、複数のレズビアンが出てくる話でそのパターンしか出てこなかったら、なんか違うと思いますしね。

まとめ

ひとつひとつのエピソードが深いし、全体のまとめ方もよく、しみじみと胸にこたえる映画でした。前作『Spider Lilies(刺青)』にも負けず劣らずお勧めです。2009年12月現在、日本版DVDの発売予定はまだないようですが(あたしは北米版で観ました)、ぜひとも発売してほしいと思います。