石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『清々と(1)』(谷川史子、少年画報社)感想

清々と 1 (ヤングキングコミックス)

清々と 1 (ヤングキングコミックス)

ふんわりとやわらかな女子校物語(百合話あり)

主人公・田中清(さや)が入学したお嬢様女子校・鈴蘭女学院の乙女たちの物語。全体に漂う優しくやわらかな雰囲気が魅力的です。第2話が百合話なのですが、思春期キャラたちの心の機微が繊細に描き出されており、楽しく読みました。ただし、1冊を通じてストーリーがやや類型的で、どこかこじんまりしているところは物足りない気もします。2巻以降でもう少し意外性を盛り込んでくれると、もっと嬉しいかも。

第2話について

清のクラスメイト・雅(みやび)から清への片想いのお話。表情の描き方と、キャラたちの幼さの表現、そして線引きの優しさがすばらしかったです。

まず表情については、雅にとどめをさします。物語前半の雅の表情を見ているだけで清への恋心がすべてわかってしまうというハイテクニックにうたれました。台詞や地の文でいちいち説明しなくても、走り去る清の背中を見つめる雅の顔と、そこに吹く風のざあっという音があるだけで、全部伝わって来ちゃうところがすごい。漫画って、こういうものよねえ。

キャラの幼さの描出については、清と雅の両方ともよかったです。一見「大人っぽい雅とまだ恋を知らない(知りかけの?)清」という組み合わせにも見えて、実はふたりともまだまだ幼さを残しているところが味わい深い感じ。百合ものにおける「思春期」の表象って、まるでパテやソフビで作り上げたかのような人工臭が漂っていることが少なくないと思うんですが、この作品におけるそれはもっと乳臭くてやわらかく、生身の手ごたえがあると思います。

で、そのへんの幼さが、上の方で書いた「線引きの優しさ」にもつながってくるんですよ。このお話では、清や雅の気持ちに「恋」とか「友情」とか「思春期の錯覚」とかいうありふれたレッテルは貼られないんです。もう少し未分化な、もどかしくて歯がゆくて、泣きたいような気持ちをていねいに描いていくだけで、そこにオトナ目線の線引きを持ち込んで突然カテゴライズするということはないんですね。そのあたりのよく計算されたゆるさが斬新で、楽しく読めました。寸止め的または玉虫色的なオチはちょっとズルいけど、これはこれであり。

その他の収録作について

生徒のみならず教師が主人公の話も登場するところが面白いです。全体を包み込むハートウォーミングな雰囲気もステキ。ただ、ストーリーそのものにあんまり新しさが感じられないところが気にかかりました。「クラシックな言葉遣いが似合う雰囲気」(あとがきより)にこだわりすぎて、物語構成までどことなく類型的になってやしませんか。「お見合いの席、なぜかお嬢さんの振袖のたもとから転がりだすはっさく」など、部分部分では鮮烈な印象も残るだけに、筋立てのおとなしさがちょっとだけ物足りない感じでした。

まとめ

第2話の百合展開がよかったです。迂闊なレッテル貼りをしたらとりこぼされてしまいそうな微妙な感情をていねいにとらえた良作だと思います。1冊全体に通底する、優しくあたたかい雰囲気もナイスでした。だからこそ、全体的にストーリーの組み立てがやや陳腐なところが残念に感じられます。もう少し冒険してしまってもよかったのでは。とりあえず、2巻に期待。