
- 作者: 中山可穂
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/05/25
- メディア: 文庫
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極上のレズビアン小説集
なんて贅沢な短編集だ、と思いました。圧倒され過ぎちゃって、うまく感想が書けないかも。それぐらいよかったです。収録されたどの作品も、研ぎ澄まされた文体、鮮やかなイマジネーション、圧倒的なラストと、非の打ち所がありませんでした。女性同士の愛を描いた小説をお探しの方に、今いちばんおすすめしたい1冊です。
この本の何がいいって、どの作品も子供じみた恋愛至上主義とは無縁であること。両想いになれば、あるいは愛する相手とのキスやセックスにたどりつければそれですべてうまくいくとようなご都合主義は、そこにはありません。いわばこれは、女性同士の愛や性がただの日常となったその先に一歩踏み込んでいく恋愛小説集。その踏み込みっぷりの力強さときたら、あたかもストライド走法で思い切りよく駆けていく陸上選手のようで、惚れ惚れしました。
愛や性が日常的なものとなったその先にも、目もくらむ恋の歓喜もあれば、胸を突く痛みもあり、祈りに似た諦念もある。人はそうしたものに翻弄されながら、「花伽藍に抱かれて、狂おしいめまいとともに立ち尽く」す(p. 153)より他はない、というのが、収録作すべてに共通するテーマだと思います。恋に振り回され、あるいは導かれながら主人公たちが見いだした美しいもの(それは時として美しいだけでなく、静かな哀しみや苦しみをも併せ持っているのですが)をそっと集めた宝箱のような本だと思いました。
女性同士のカップルの組み合わせが、決してレズビアン×レズビアンだけでないところも嬉しかったです。レズビアンとヘテロ女性、あるいはバイセクシュアル女性という組み合わせも多数登場し、はからずも女同士の関係の幅の広さを指し示す1冊となっていると思います。性愛描写も文句なし。いちレズビアンとして、「わかりすぎて泣ける」とたびたび思うほどよかったです。男性キャラがみんないい奴であるところ、つまり男をけなして女性同性愛を持ち上げるパターンが使われていないとことにもほっとしましたし、肉じゃがやかっぱえびせんなど、きわめて日常的な小道具の配置のうまさにも胸がふるえました。
まとめ
ティーンエイジャー向けのいわゆる「百合」作品がフルーツジュースだとしたら、こちらは上等のワインのような作品だと思います。しなやかでたくましく、かつ繊細な味わいが、まさしく大人向け。いいもん読ませてもらいました。今後しばらく、この美味に酔っぱらったままでいそうです。