石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『プリンセス♥プリンセス』(青木光恵、一迅社)感想

プリンセス・プリンセス (IDコミックス 百合姫コミックス)

プリンセス・プリンセス (IDコミックス 百合姫コミックス)

スケバン百合が白眉です

描き下ろしも含め計7作品が収録された百合短編集。スケバン百合こと「バンカラ乙女学園」が白眉でした。スケバンとギャルの恋物語なんですが、レトロなイメージへの愛と遊び心がいい感じなんですよ。あとは、表題作の超思い切りのよい一場面や、「ランチボックス」(全2話)のごはんとエッチがかもし出す幸福感もよかった。ただし、全体的に絵柄がちょっとラフな感じなので、そのへんで人によって多少好みが分かれるかもです。

「バンカラ乙女学園」について

超ロングのスケバンスカートとか縦ロールとかガラスの仮面ばりの白目とか、レトロなあれこれを楽しんで描いてる雰囲気が満載。読んでるこっちも非常に楽しませてもらいました。あと犬。犬いいですよすごく。

レトロで思い出したのですが、流行の循環ということについて、伊丹十三氏がこんなことを書いています(新潮文庫『女たちよ!』pp. 246 - 247.)。

流行というものは循環するそうだが、ああいう服装をわれわれが再び美しく、心に適うものとして受け入れる時代がくるのであろうか。くる、としたら一体いつの話だろうか。
「百五十年後である」
といった学者がいる。イギリスのジェイムズ・レイヴァという服装学者であるが、彼によれば、ある服装は、それが流行する

十年前には
下品
五年前
恥知らず
一年前
大胆
当時
スマート
一年後
みすぼらしい
十年後
醜悪
二十年後
噴飯もの
三十年後
滑稽
五十年後
風変わりな
七十年後
魅力的
百年後
ロマンティック
百五十年後
美しい

ということになるそうだ。

東映の女番長(スケバン)シリーズが始まったのが1970年初頭。和田慎二の『スケバン刑事』は1976年連載開始。ということは、「スケバン」文化が誕生して40年弱なわけで、スケバンのイメージは、ちょうど「滑稽」と「風変わりな」の境目にあるのかもしれませんね。志帆のスカートのベタな長さに吹き出しつつも最後のページで思わずモエモエしてしまうのは、「風変わり」を経ていずれ「魅力的」へと向かうベクトルの萌芽を脳が感知するせいかもしれません。いや、もちろん昭和のノスタルジーのせいもあるとは思うんですけど。平成キッズがこれ読んだらどんな感想を抱くのか、ちょっと聞いてみたいところです。

その他よかったところ

まずは表題作「プリンセス♥プリンセス」のクライマックスの一場面。具体的にはp. 30のことなんですけど、あの思い切りのよさに感動しました。

女性同士のセックスと爪の関係をうまく描くのって、難しいと思うんですよ。長い爪のままいきなり絡ませてしまう作品もありますが、あれは見ていて「いてててて」ってなります。逆に、「ほらほら女同士だから爪は短くするんだよねー、知ってるんだもんねーふふーん」みたいなねっちりした描写に走られても、「コンドームのつけ方を知ってるって自慢する中学生かよ」と萎えます。その点、この作品は目ウロコでした。惚れるよね、あれは。

あと、「ランチボックス」の「おいしいごはんと気持ちいいセックス2本立て」な恋模様にもぐっときました。精神性とやらが強調されがちな百合ジャンルで、こういう地に足がついた身体感覚のあるお話に出会うと、すごくほっとします。そういう意味では、中学生時代のゆかり(14歳)が

こんなに伝わんないもんなんだ――!!

という落胆から

もっとガツガツ行かなきゃ!!

と肉食系に転じるところ(p. 119)なんかも面白かったですね。伝わる以前のあははうふふ状態だけで終わってしまう百合ものも少なくないだけに、そこを越えていくアグレッシブさに心揺さぶられました。

ただし

同作家さんの他の作品に比べ、絵のタッチがややラフな気がします。あと、唇の厚さや女のコの肢体のむっちり感も独特なので、ひょっとしたらそのへんで好き嫌いが分かれるかも?

まとめ

スケバン百合がとにかくよかったです。いっそシリーズ化してほしいぐらい。女のコたちの思い切りのよさや可愛さ、そしてリアルな身体感覚もステキでした。これは青木光恵さんの初百合単行本とのことですが、ぜひ2冊目3冊目も出していただきたいと思います。