石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ジゼル・アラン(1)』(笠井スイ、エンターブレイン)感想

ジゼル・アラン (1) (ビームコミックス)

ジゼル・アラン (1) (ビームコミックス)

令嬢の冒険物語。脇のレズビアンキャラがよかったです

ヨーロッパのとある街で“何でも屋”を開業したお嬢様、ジゼル・アランの物語。独特の雰囲気と緻密な描き込みで読ませるタイプの作品です。全体的にストーリーラインが弱いところが欠点と言えば欠点ですが、一種の無国籍ファンタジーだと思えば十分アリ。百合メインの漫画ではまったくないものの、第3話のレズビアンキャラがいい味出してます。

あらすじなど

以下、帯より。

20世紀初頭、ヨーロッパ。主人公の少女の名は、ジゼル・アラン。アパートの大家をしているジゼルが、ある日“何でも屋”を開業する。でもお嬢様育ちで好奇心旺盛なジゼルは、何かと暴走しがちで――。

無理矢理仕事を手伝わされるエリックをはじめ、個性豊かなアパートの住人たちを巻き込んで、ジゼルお嬢様の危なっかしい活躍が始まる。

ジゼルのくるくる変わる表情がたいへんに可愛らしいし、みっちりと描き込まれた画面も魅力的です。ほのぼのとした雰囲気もとても良い感じ。反面、エリックのキャラ造形が類型的なことと、ストーリーにひねりの少ないところはやや残念。このあたりは今後に期待でしょうか。

レズビアンキャラがいいですよ

第3話のレズビアンキャラ・コレットの職業はストリッパー。部屋探し中にジゼルに一目惚れし、何でも屋の仕事として1日付き人を依頼します。官能と可愛らしさとが両立するストーリーが心憎く、楽しめました。コレットのストリップが、生命力の根源をたたえた一種の裸婦像として機能しているところもすばらしい。1Pのサイドストーリーの百合百合しさも楽しかったです。

無国籍ファンタジーとしての『ジゼル・アラン』

「一見英国に見えて実は英国ではない」という不思議な世界が舞台となっています。公用語は英語だけど米語寄り、そして人名はフランス語寄り、それなのに街にはトラム(路面電車)が走っていて、キャラはなぜか煙突掃除人を呼ばずに自力で煙突掃除するという日本的感覚の持ち主だったりします。

要するにこれは無国籍ファンタジーなのだな、とあたしは解釈しました。日活無国籍アクションの登場人物が全て日本人だったのと同じで、『ジゼル・アラン』も実は中身は全部日本人なんじゃないかと。あくまでも「ヨーロッパ風の背景の中でお転婆お嬢様が危なっかしく活躍し、周囲をハラハラさせる」というのが物語の最重要ポイントであり、どこか単一の国の色をつけることを敢えて避けたのではないかと感じました。

「どこの国でもない架空のヨーロッパ」を舞台とした成功例としては、宮崎アニメ『魔女の宅急便』があります。ニシンのパイこそ北欧風ですが、他の点ではまったくどこの国ともつかない世界ですよね、あれ。それにくらべると『ジゼル・アラン』の無国籍ぶりはまだまだおとなしい感じがします。言語や人名など、もう少し作り込んでしまってもよかったのでは?

まとめ

レズビアンキャラの回がすごくよかったので満足です。2巻以降でもまたコレットの活躍が見られたらいいなあ。他のお話も、しみじみ・ほのぼのできる一種のファンタジーとして、とても楽しく読みました。欲を言うとお話の舞台をもう少し架空寄りに作り込んでしまってもよかったのではいかと思わないでもないですが、このままでもじゅうぶん面白い漫画であることは間違いありません。黒髪おかっぱお嬢様のキュートな活躍に目を細めたい方は、ぜひ。