
- 作者: 秋山はる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/01/21
- メディア: コミック
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文句なしの最終巻。いやあ、よかった!
元アイドルの雪乃と、作曲家の節子の危なっかしいラブストーリー第6巻。これで完結です。レズビアンカップルとしての生活感といい、容赦なく心を抉る部分といい、ふたりの成長と調和といい、文句なし。ただの恋愛ものの枠を越えて、いたいけでいとおしい思春期物語という枠組みで語られるべき作品だと思います。
女同士の生活感
第31話の2人の姿は、レズビアンなら身に覚えがない人の方が少ないんじゃないでしょうか。2人して裸のままトイレに行ったりごろごろしたり、結局またごはんも食べずにしちゃってすっかり空腹になったり、それでも飽きずにまたしたり。かつて笹野みちるが「脱力感」で歌ったあの世界にも通じるものがあると思います。家事のしかたや下着の話などもいかにも女同士っぽくて、よかったです。そしてそして、何よりすごいと思ったのは、キャラにそこまでラブラブバカップルさせつつも、ふとしたことで気弱になって心ざわめく瞬間を的確にとらえていること。これですよこれ。
裸でいちゃいちゃしてやりまくっているわりに、小さなことですぐ動揺してしまうのは、結局2人がまだ若くて世慣れていないから。この痛々しいまでの青さ・未熟さがまぶしくも切なく、読み終えてすぐLB女子と「わかるよねこれー!」と語り合いたくなりました。第35話の炊き込みご飯の場面なんかもそうですが、とにかく生活感・現実感がハンパないです。「女同士だから」といって変に夢見がちなフィルタがかけられたりしていない、当を得た日常描写だと思います。
心抉るあれこれ
この巻では特に雪乃の幼さ、みっともなさが全部さらけ出され、いわば内面の棚卸しが徹底的に行われます。それがまた容赦ないんだ。特に雪乃がしおりからこう言われる場面(pp. 106 - 108)なんて、抉ること抉ること。
宮下さんは他人に承認してもらわないと自分を実感できないんですよ
(引用者中略)
もっとキョーレツに求めてくれる相手が現れたって 彼女のこと捨てちゃかわいそうですよ?
宮下さんみたいな“フツーの子”って 女の人との関係を平気で“青春のいい思い出”にしちゃいそう
1巻からこちらの雪乃のフラフラ具合を端的に表す言葉だと思います。「“青春のいい思い出”にしちゃいそう」というのは、何を隠そう、1巻を読んだときにあたしも思ったことです。承認欲求についても納得のひとことでした。雪乃があっちにフラフラこっちにフラフラと流されるばかりで、自分から特に熱烈に「愛してる」などと言ってはこなかったのは、結局彼女が関係に求めていたのが「承認」だったからなんですね。
雪乃がそれをどう振り切って次の一歩を踏み出していくかは、読んでのお楽しみ。これまで少しずつ作ってきた足がかりに足をかけてえいやと大人の階段を上るよな、よい展開だったと思います。
ふたりの成長と調和
くだくだしく説明するより、1〜6巻の表紙と裏表紙を見てもらった方が早いかも。小道具のあしらいが、これまでずっと雪乃が前巻の節子を追いかける形だったのに、ここに至って初めて2人同列になってるんです。
表にしてみると、こう。
巻数 | 表紙(雪乃) | 裏表紙(節子) |
---|---|---|
1 | 花束 | ヘッドホン |
2 | ヘッドホン | 楽器(ギター) |
3 | 楽器(おもちゃのピアノ) | 果実(ぶどう) |
4 | 果実(?) | キャンドル |
5 | ランタン | 花 |
6 | 花束 | 花束 |
これはお話の内容そのものの暗示になっていると思います。雪乃は節子を一歩先行く大人の女性だと思って追いかけてきたけれど、実は節子にだって「カッコ悪い」(p. 174)ところはたくさんあり、雪乃と変わらないところを歩いているんですね。この6巻でようやく双方がそのことをはっきり認識し、さらにお互いが少し成長することで、同じ目線で肩を並べることができたのだと思います。2人揃っての花束はその象徴であり、祝福でもあります。また、1巻へとつながるという点では、物語の「終わり」がまた新たな「始まり」であることの暗示にもなっています。最後の最後まで心憎い演出に、脱帽するばかりです。
本編の方では、pp. 182 - 183の流れがすばらしかったです。特に節子の「何?」のコマ。あれだけで、雪乃の中の節子観がどれだけ変わったか、そして節子がどんなにかわいい人なのかが一挙に伝わってきます。こうしたことを絵だけで伝え切ってしまうあたりがプロの技だと思いました。
まとめ
かつて4巻のレビューでこの作品を「不安定でダメダメな青春における自己形成」の物語だと書き、5巻のレビューでは「『百合はファンタジー☆』派の皆さんではなく、青臭くてイタタな恋愛模様にのたうち回りたい大人にこそおすすめ」と書きました。6巻を読んで、ますますその意を新たにいたしました。波瀾万丈の成長物語としても、ぐっと身近なレズビアン漫画としても、すごくおすすめです。途中で何度もハラハラさせられたけど、ここまで読み続けてきてよかった!