石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『キラキラ』(竹宮ジン、一迅社)感想

キラキラ (IDコミックス 百合姫コミックス)

キラキラ (IDコミックス 百合姫コミックス)

恋心の描写はキラキラしてるんですが……

カリスマモデル・リアのファンだったサヤが思わぬ人に惹かれていく表題作の他、全3話の「愛しい人」シリーズも収録。タイトル通りキラキラした恋心の描写は美しいものの、説明台詞が多すぎる点や、キャラの欲求が漠然としすぎている点はマイナス。総合すると、表情や雰囲気はともかく、構成に難ありの1冊と言えましょう。

「キラキラ」「リンリン」について

サヤから見たマリがキラキラ輝いて見え、その輝きがサヤの恋心をさらに加速させていくくだりがよかったです。マリが可愛すぎて甘やかしたくなり、CDをたくさん貸して

返してくれるまで何回もお茶できるじゃん?

と微笑むサヤの姿に「うんうん」と力強くうなずいた読者は多いことでありましょう。サヤ視点でのマリの表情が、恋に落ちたことのある人なら誰もが知っているあのラブラブフィルターを的確に表しているため、この展開は共感を呼びやすいと思うんです。

ただ、その後がねえ。特にサヤの側のドラマ上の欲求が漠然としていること、クライマックスの意外性が薄いことなどから、お話があんまり盛り上がっていない気がします。第1話「キラキラ」のフィナーレでサヤは「あたしは あのキラキラを信じてる」と言っていますが、「だから何をどうしたいのか」が今ひとつ伝わってきません。第2話「リンリン」でマリの妹・リアの乱入というお約束な山場を乗り越えた後でも、サヤの側の変化・成長が特に感じられないのは、そのためなのかも。

マリの方はそれでも「勇気を出して告白できるようになった」という弱めの変化が一応ありますが、サヤは単なる棚ぼたでやにさがっているだけです。もう少し強い動機と、それにぶち当たる葛藤、そこからの明確なターニングポイントがほしかったところ。

「愛しい人」シリーズについて

高校生の陽子から幼なじみの那奈への片想いが、陽子の姉・月子によってひっかき回され玉砕。「女同士で本気とかないでしょう?」という那奈の台詞に陽子は激怒し、2人は疎遠に。その後短大生になった那奈の視点で、ちょっと違った角度からこの恋が振り返られてジ・エンドという物語。

大学生になった陽子が愛する彼女を得て幸せそうにしていたり、那奈の友人・さとみもどうやらレズビアンらしかったりと、後半がガチ要素多めなところは好印象。「女同士で本気とか~」という那奈の台詞を、ここでさりげなく覆してくれているわけですからね。しかし、全3話を通じて、キャラの心情をあまりにも文字で説明しすぎなところはどうかと。特にpp. 96-97の、失恋して泣きながら走っている最中の陽子のくっそ長いモノローグ、これはないよ。

大事だった

壊したくなかった
守りたかった
触れたくて…

でも
それさえも
躊躇われるほど

本当に本当に
大事だった

この痛みも
切なさも

絶対
忘れない

失恋直後のティーンエイジャーが、泣きながら夜道を走っている最中、ここまでいちいち己の意識を言語化するもんですかね。しないでしょ。そんな余裕ないでしょ。早い話がこれは、絵やエピソードでプロットを説明することができないから、とりあえず登場人物に言わせて終わりにしただけでしょ。

画力のない作家さんというわけでもなく、たとえば第3話の陽子の

あーうん 幸せ

という大ゴマ(p. 120)の表情など、彼女の現在の状況をこれ以上なく表現しつくしていると思うんですよね。なぜそれを他のところではやらないのか、謎です。

まとめ

キャラの要所要所の表情はとてもいいのに、全体的な構成が甘く、ドラマとしての盛り上がりに欠けます。「何をどうしたいのかわかりにくいキャラがお約束の山場をなんとなく乗り越え、棚ぼたでキスにありつきました」というお話が魅力的とは思えないし、相手を大事に思う気持ちも、恋を失った痛みも、台詞で延々説明させるのではなくキャラの行動で見せてほしかったです。こんな漫画を描く作家さんだったか!? と、今ちょっとショックを受けているところ。