ホテルが舞台の百合話アソート
名門ホテルを舞台に、オムニバス形式で計6話の百合ストーリーを詰め込んだ短編集。バラエティーに富むキャラたちと、どこまでも色っぽい雰囲気、そして絶妙の間の取り方がたまりません。
キャラ立てのうまさについて
まず、各話の主人公たる従業員たちの幅広さがよかったです。タフで前向きな客室係・ひとでから、陰影のある女たらしなセルヴーズ・キサラギまで性格がくっきりと分かれており、それでいて皆好感の持てるキャラに仕上がっています。ホテルの客たちの方もそれぞれの抱えている葛藤が明確で、結果としてそれらの葛藤がうまい具合にストーリーを転がしてくれています。
色っぽさについて
掲載誌が『つぼみ』なだけあって、直接的なエロシーンはほとんどありません。第4話にだけ女性同士のセックスを暗示する場面がちらりと出てきますが、この本のエロスについて特筆すべきは、そこじゃない。
まず見るべきなのは、第1話でかがみこんでピアスを拾うお客様の白いうなじ(に、コンシェルジェの主人公が目を奪われる場面)! 滅多に見ない角度でのあのなまめかしいラインに、読者の側にまで「見てはならなかったもの」(p. 7)に触れてしまったかのような興奮が伝わってくる名場面です。もうひとつ際立っていたのは、第6話の、ホテルの内部をこのホテルを設計した少女・シマの身体になぞらえて撫で回す少女・利重さんと、それを見てドキドキするシマとのやりとり。エロティックであるばかりか、全話を通じて物語の舞台となってきたスイートルームの意味までも深める、ユニークなシークエンスです。
間の取り方について
簡にして要を得たコマ運びがすばらしかったです。特にそれが光っていたのは、第2話でひとでがお客様を逃がす場面。ここである重要な事実が明らかになるのですが、この漫画はその瞬間のひかりと客の表情を一切見せず、ワゴンを押すひかりの後ろ姿&コマとコマとのリズムだけですべてのニュアンスを伝えてきます。受け手の想像力に一切をゆだねることで、画面外で起こっていることがかえって鮮明に伝わるというハイテクニックに惚れ惚れ。
まとめ
読もうかどうしようか迷っておられる方は、第1話のあの白いうなじがあらわになるページ(p. 7)だけでもまず見てほしいなあ。この漫画のエロティシズムやキャラの魅力、画面構成のうまさが、わずか1ページの中に凝縮されてますから。『つぼみ』掲載時にこの場面を見た瞬間「コミックスが出たら絶対買う!」と思ったあたしの直感は大当たりでした。作者さんは本作以降百合物のコミックスは出しておられないようで(2014年現在)、そこだけが残念。
エンドレスルーム (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)
- 作者: 藤が丘ユミチ
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2011/04/12
- メディア: コミック
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