レズビアン婆さんふたりのロードムービー
31年間連れ添ったのち離れ離れにされそうになった老レズビアンカップルが、結婚するため車でカナダに向かうロードムービー。スラップスティックで、かつ心温まるラブストーリーです。オリンピア・デュカキス演じるダイク婆さん「ステラ」が超魅力的。
独自路線のラブストーリー
モチーフがモチーフだけに、鑑賞前には多少身構えないでもなかったんですよ。「『ウーマンラブウーマン』第1話みたいな辛気くさい話だったらどうしよう」とか、「『テルマ・アンド・ルイーズ』みたいな自滅型の展開だったら悲しい」とかね。しかし、それらはすべて杞憂に終わりました。これは下ネタジョーク満載の、もっとカラリと笑わせてくれる映画なんです。
創り手側が上記2作品を意識していないわけではないと思うんですよ。実際、ステラのパートナー「ドティ」の孫娘の無知と無理解は『ウーマンラブウーマン』のアビーの娘とかぶるものがありますし、ステラとドティが道中で拾う若きヒッチハイカーはあたかも『テルマ・アンド・ルイーズ』のJDのよう。しかし本作ではどちらのキャラにも意外な側面が用意されており、独自の面白さを提供し得ています。「同じ素材を使っても、調理法が違えばまったく別のものができる」という映画の魔法を見た思いです。
オリンピア・デュカキスに拍手
ブッチな老ダイク、ステラ役のオリンピア・デュカキスが良くて良くて! ステラは、FワードはもちろんCワードも平気で連発し、格子縞のシャツにカウボーイ・ハットという格好でテキーラをラッパ飲みするタフなレズビアン婆さん。ユーモラスで機転が利いて、実はとてもけなげなこの女性の魅力を、デュカキスの好演があますところなく伝えていると思います。ドティとのケミストリーも非常によかったです。
フィクションにおけるいかしたレズビアンババアというと、ヤマシタトモコ著『HER』(レビュー)の武山佳子さんがベストだと思ってましたが、ステラのステキさはこの武山さんに一歩も引けを取りません。個人的オールタイム・ベスト・レズビアン婆さんがもうひとり増えて、とても嬉しいです。
時代性にしみじみ
この映画が公開されたのは2011年。従って、こんな会話が出てきます。
ステラ「どこで結婚する?」
ドティ「パリ」
ステラ「結婚が合法的なところに行かなきゃ」
ドティ「カナダ」
ふたりが住んでいるのは米国メイン州。そう、2011年時点では、同性婚できなかったんです。歴史的にはメイン州では2012年から、パリでは2013年から同性婚可能になりました。従ってこの映画ははからずも歴史が変わる直前の空気をとらえたものとなっており、2015年の今見るとしみじみと感慨深いです。
唯一の瑕疵
終盤で急にありがち展開に陥る部分があり、そこだけちょっと残念でした。泣かせの要素を入れるなとは言いませんが、もう少しひねってもよかったのでは。
まとめ
ファニーなロード・トリップ映画としても、レズビアンのラブストーリーとしても秀逸。社会的なテーマをはらみつつも決して必要以上に辛気くさくならないところがいいし、何よりステラの強烈なキャラ造形がたまりません。もう少しひねりが欲しい部分もあるにはありますが、それでもなお5段階評価で4.5はつけたい傑作です。おすすめ。
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