石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

体外受精児は「合成のニセモノ人間」? D&Gデザイナーの発言に批判殺到

Rake [US] No. 35 2014 (単号)

イタリアの高級ファッションブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」のドメニコ・ドルチェ氏が体外受精児を"synthetic"(『合成の/偽物の/人工的な』の意)と呼び、伝統的でない家庭に対して否定的な発言をしたことから、猛烈な批判を浴びています。

詳細は以下。

この"synthetic"(イタリア語だと"sintetici")って単語を、日本語の感覚で「人工授精だから『人工的』でいいじゃん」と受け止めるのはちょっと違うと思います。本革に対して合成皮革のことを「シンセティック・レザー」って言うでしょ、あの「シンセティック」ですよ、これ。したがって単に人工的なだけじゃなくて、「本物でない」「偽物の」てなニュアンスがあるんです。そんなことばが、生身の赤ちゃんに対して使われたんです。

ドメニコ・ドルチェ氏はさらに、「(赤ちゃんが)生まれた時に、父親と母親がいるべき」とも発言。これに対し、体外受精でもうけた子を同性パートナーと共に育てているエルトン・ジョンが激怒し、同社製品のボイコットを呼びかけたところまでは、日本語メディアでもかなり報道されています。でも、なぜかエルトンがらみの話題以外はほとんど出てきてないんですよね。なので、上記以外の批判や、D&G側の動向をちょっとまとめてみます。

セレブからの批判いろいろ

シャロン・ストーン

以下、 E! Onlineより引用。

「困窮していて、家や、愛ある家族や、偏見なく迎え入れてくれる家庭を求めている子供たちに向けられるこのような残酷さに、わたしたちは立ち向かわなければなりません」

"We must meet this type of cruelty towards children who are in need and want homes and families with love and open homes,"

シャロン・ストーンは3人の養子のお母さんです。「生まれたときに父親と母親がいないとダメ」というD&Gの主張は、こうした家庭も否定してしまうことになるんです。

コートニー・ラブ

「手持ちのD&G製品を全部まとめたところ。燃やしてしまいたい」。


リッキー・マーティン

「目を覚ませ、もう2015年なんだよ」。


マルチナ・ナブラチロワ

「D&Gのシャツは全部ゴミ箱行きにします。誰にも着て欲しくありません」


ケリー・カットローン

「ドルチェ&ガッバーナによれば、集団レイプのまねをするのはいいのに、体外受精と同性婚はダメらしい」。写真は、2007年に物議を醸した同社の広告写真。


セレブ以外からの批判いろいろ

D&Gの眼鏡を捨てた人。


香水を捨てた人。


D&Gのスーツを切り開いて、おむつバケツの内袋にしてしまったゲイパパ。


体外受精で生まれたお子さんの写真をupする人たち。


D&Gの反応

「私はD&G]

D&Gは上記のような批判をなぜか「自分たちの表現の自由への侵害」と受け止めたらしく、ステファノ・ガッバーナ氏のInstagramにて「私はシャルリー」をもじった「私はD&G」キャンペーンを開始。「間違った情報に反対」「偽のニュースをボイコットせよ」と呼びかけています。


クリエイティブ・ディレクターが辞職

D&G社のオンラインマガジン「Swide」のクリエイティブ・ディレクターGiuliano Federico氏が3月16日、辞職を発表。ドルチェ氏とガッバーナ氏の発言は、Federico氏の「市民権についての個人的な信念と献身」と「完全に矛盾する」ものだとのこと。

一方そのころ英国では

英国のLGBT団体、「ピーター・タッチェル・ファウンデーション(Peter Tatchell Foundation)」と「アウト・アンド・プラウド・ダイヤモンド・グループ(Out and Proud Diamond Group)」が、3月19日午後1~2時にロンドンのD&Gの店舗前で抗議活動をおこなうと告知しました。

雑感など

この件がここまで炎上したのは、D&G側が「表現の自由」をはき違えていたからでは。体外受精についてどのような意見を発表するのも自由ですが、その意見に対して人が何を言うかもまた自由だと、なぜ気づかなかったんでしょう。

それからもうひとつ、このボイコットを「『ゲイの』(あるいは『性的少数者の』)圧力怖い」てな話にすり替えたがる人がきっといると思うんですが、これってジェラルド・ラトナー(Gerald Ratner)の失言事件と同じ構造ですからね? ジェラルド・ラトナーは、英国に基盤を置く宝石商チェーンの(元)最高経営責任者で、自社商品を「完全な屑(total crap)」と呼んだため驚異的な顧客離れを引き起こし、会社を倒産寸前まで追い込んだ人。「完全な屑」発言は商品のみならずそれを買う客をも軽蔑したものとみなされ、それが不買につながったのですが、誰もこれをして「異性愛者の圧力怖い」とは言わないでしょ。失言がビジネスにマイナスの影響を及ぼすのは当たりまえのことで、性的指向の問題ではありません。

それにしても、ここまで初期対応に大失敗した(よそのお子さんを合成ニセモノ人間呼ばわりしておいて、批判されたら『テロ攻撃の被害者』気取りってのはないわー)以上、今後D&Gは大変なんじゃないかなあ。ひょっとしたらキリスト教右派団体や反同性愛団体が精出して買ってくれるのかもしれませんけど、それは果たして同社が望んだことなのでしょうか。同じイタリアのバリラみたいに、トップが「伝統」を持ち出してホモフォビアを正当化しようとしたがために余計にドツボにはまっていくパターンにならなきゃいいんですけどねえ。