LGBTQティーンのための、具体的かつ実践的なサバイバルガイド
10代のLGBTQ(Qは『クエスチョニング』、つまり迷っている人のこと)が日常の中で出くわす困難を切り抜けるためのサバイバルガイド。米国発のセルフヘルプ本だけあって、情報が詳しくて実践的。一問一答式の説明が特にわかりやすく、便利です。
一問一答、ちょう便利
先日紹介した『LGBTってなんだろう? からだの性・こころの性・好きになる性』(藥師実芳ほか、合同出版)がセクシュアリティについての知識の入口だとしたら、この本はそこからさらに一歩踏み込んだ、「LGBTQティーンエイジャーのための思春期サバイバル指南書」。学校での中傷や虐待、友だちづくり、カミングアウトの問題、うつや依存症など健康上のトラブル、セックスの悩み、仕事や進路の選択など、性的マイノリティの子供たちが特に直面しやすい困難について情報を提供し、本人の立場でやれることを提案する内容となっています。
特筆すべきは、受験参考書もびっくりの一問一答式の説明スタイルがたいへんわかりやすいこと。セクシュアリティについて、「一時的なものさ」と言われたらどうする? ホモフォビアのジョークを言われたら? カミングアウトして、親に「この先苦労する」と言われたら? 恋人から安全でないセックスを要求されたら? 就職面接ではカミングアウトするべき? ……こうした疑問について、精神論にとどまらない具体的な答えを示してくれるのがこの本。「自分が性的にマイノリティだという自覚はあるんだけど、これからどう生きよう」というところにいる思春期キッズにおすすめですねえ、これは。
辞書的にも使える詳細さ
一問一答式以外の部分も情報がぎっしりで、専門家の意見や各種統計など、エビデンスに基づいた知識を得ることができます。LGBTQに関する典型的な誤解やウソについて解説するページも盛りだくさん。
「著者序文」では、この本の使い方について以下のように書かれています(p. 4)。
この本は必要に応じて読む参考書のようなものです。はじめからおわりまで通して読んでもいいし、自分の状況にあっているものを目次から見つけだして読んでもいいでしょう。
濃密な本だけに、この「目次から見つけだして」読むという辞書的な使い方がかなりおすすめです。今まさに困っているときにその困りごとについてすぐ調べられるよう、手近なところに守り刀のように置いておくと重宝するのでは(クロゼットな人は、親に見つからないうまい隠し場所を見つける必要がありますが)。
パラパラとめくりながら、興味を持った部分をくわしく読んでみても面白いです。自分はこの読み方で、初めて世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会(World Professional Assosiation for Transgender Health)の定めたSRS(性別適合手術)の基準について詳しく知ることができました。性的マイノリティ当事者であっても、自分以外のことについては(たいてい)驚くほど知らないものですから、自分で自分の蒙を啓くためにもこうした本は重要かと。
その他留意点
法制度や宗教、GSA(『ゲイ・ストレート同盟』。米国発祥の、LGBTQ生徒への嫌がらせや差別に反対する学生クラブ)についての記述などは、日本にはそのままでは当てはまりにくい部分も若干あります。また、英語版の初版発行が2006年なので、世界の同性婚情勢については情報がやや古いです。
自殺や自傷を考えたときの相談先リスト(日本の相談窓口が載っています)のURLは、2015年4月6日現在すべて有効であることを確認しました。ただし、この本で紹介されている相談先は、性的マイノリティの話題に特化してはいない「いのちの電話」などが主体。セクシュアリティの悩みについて特に相談したい場合は、『LGBTってなんだろう? からだの性・こころの性・好きになる性』(藥師実芳ほか、合同出版)掲載の各種相談窓口の方が向いているかもしれません。
まとめ
悩める思春期の子供たちがマイノリティ人生の荒波を切り抜けるための羅針盤のような本だと思います。日米で多少の状況の違いこそあれ、綿密で具体的なアドバイスの数々は日本のティーンエイジャーたちにもきっと役立つはず。Amazon.comのカスタマーズレビューを見ていたら、「9年生のゲイの息子のために買いました」、「孫に買ってやったところ、この本のおかげでとても自信が持てたようです。孫はこの本を使って母親にカミングアウトしました」などの声があり、これこそ正しい使い方だと思いましたよ。
LGBTQってなに?―セクシュアル・マイノリティのためのハンドブック―
- 作者: ケリーヒューゲル,上田勢子
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2011/12/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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