石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

ストーンウォール記念の像にペンキ ホワイトウォッシングに抗議

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ニューヨークの2人の活動家が、ストーンウォールの反乱を記念して建てられた像をペンキで塗って黒と茶色にしてしまいました。この反乱における有色人種のドラァグやトランスの功績が無視されてしまっていることに対する抗議です。

詳細は以下。

Activists Just Painted The Stonewall Statues Brown For Miss Major

「ストーンウォールの反乱」は、1969年6月にニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」で起こった暴動事件。警察の横暴な手入れにバーの客たちが抵抗したことがきっかけで、2000人以上の群衆が400人の警官隊とやりあう事態となりました。その後ストーンウォール・インは現代の同性愛者解放運動の発祥の地と呼ばれるようになり、筋向かいのクリストファー・パークには、反乱を記念する「同性愛解放運動のモニュメント」(Gay Liberation Monument)が設置されました。

ところがこのモニュメント、真っ白で、こんな造形なんですよ。

Gay Liberation
Gay Liberation / celesteh

実際には、ストーンウォールで反乱の口火を切ったのは、有色人種のドラァグクイーンやトランスジェンダーの女性たちでした。最初に警官たちに逆らい、警棒で殴られながらも戦った彼女たちの功績は、なぜか、「なかったこと」にされています。

そこへもってきて、最近ローランド・エメリッヒ監督の映画『ストーンウォール』が、白人ゲイ男性を暴動のヒーローにした(ように見える)トレイラーを発表しちゃったもんだから、「ホワイトウォッシング(有色人種のものを白人文化で塗りつぶしてしまうこと)だ」として批判が再燃。で、こうなりました。

像の顔はペンキで黒と褐色に塗られ、ウィッグやブラジャーがつけられています。像の膝元の紙には、「黒人+ラティーナのトランス女性が暴動を率いた ホワイトウォッシングをやめろ」とのメッセージが。

これをやったのは匿名の活動家ふたりで、ひとりは白人、ひとりはラティーナ。どちらもジェンダー・ノンコンフォーミング(既存のジェンダーの類型にあてはまらない)なクィア女性だとのこと。彼女たちはAutstraddleのインタビューでこう話しています。

あの像はストーンウォールの反乱を記念するために設置されているはずなのに、実際の反乱を示してはいません。あれでは、黒人とラティーナのトランス女性たちの横っ面にビンタを喰らわせているも同然です。その女性たちは、警棒で殴られ、警察車両に押し込まれながらも、LGBTQを解放する戦いの先頭に立つガッツを持っていたのに。

Those sculptures are supposedly there to commemorate the Stonewall riots, but there isn’t a trace of the actual riots in them. They’re a slap across the face to the Black and Latina trans women who got whacked with batons and shoved into police vans, and still had the guts to continue to lead the fight for LGBTQ liberation.

わたしたちが像にペンキを塗ったのは、マーシャ・P・ジョンソン、シルビア・リベラ、ミス・メイジャー、 Storme DeLarverie(訳注:すべてストーンウォールで戦った実在の人物)、そして他のあらゆる黒い肌や褐色の肌をした人たちのためです。彼女たちは運動の先頭にいたのであり、勇気と力をたたえられてしかるべきです。わたしたちがしたことは改正であって、公共物の汚損ではありません。

We painted them because Marsha P. Johnson, Sylvia Rivera, Miss Major, Storme DeLarverie and all the other Black and Brown people who led the movement deserve credit for their courage and strength. What we did was rectification, not vandalism.

当のミス・メイジャーが、このペンキ事件にTwitterで言及しています。訳すと、「誰であれ名誉のためにストーンウォールの像にペンキを塗ってくれた人へ。ミス・メイジャーはわくわくし、喜び、うっとりしています!」。

ブロガーのケネス・M・ウォルシュ氏によると、像はこの後また白く塗り直されて(または、黒と茶色のペンキを落とされて)しまった模様。しかし、上記の活動家たちはこうなることを予測した上で以下のような発言もしていたんでした。

像を塗り直す羽目になる人へ。茶色と黒の塗料がなくなることはありません。この像を白く塗り直すことの意味を考えて、(白く塗るのを)やめなさい。

To the people who’ll end up repainting the sculptures: brown and black lacquer exists. Think about what it means to repaint the statues white, and then stop.

LGBTQコミュニティー内での人種差別というのは昔からひどくて、「こんなあからさまな白人優位は、ほかの社会ではもうありえない」*1という指摘もあるほど。でも、シスジェンダーの異性愛者に向かって「俺たち/わたしたちを平等に扱え」と言いながら、コミュニティー内では「ヒーローは白くなくちゃ」と歴史を書き換えてるんじゃ、二重基準もいいとこです。このペンキ事件が法的にはどうあれ、あたしは彼女たちの行動を支持します。

*1:井田真木子. (1994). 『同性愛者たち』. p. 59. 東京:文藝春秋.