※初回~3回目鑑賞後の感想はこちら:
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見逃すにはもったいなさすぎる細部あれこれ
キャロル鑑賞も4回目。本日は「些事こそ大事」をモットーに、最初の鑑賞では気づきにくかった細かな点について述べます。キャロルのウインクやテレーズのぴょこたん歩き、2回出てくるあの台詞のニュアンス等、見逃すにはもったいなさすぎると思うんです。
あのウインクを見逃すな
キャロルがシカゴの高級ホテルのレストランで受付係から部屋番号を聞かれ、テレーズが「623号室、ミセス・エアード」と即答する場面を思い出してください。あそこでキャロル、テレーズがかわいくて誇らしくてたまらないという表情で後ろからテレーズの方を見て――ウインクするんですよね一瞬! どれだけ観客のハートを撃ち抜けば気が済むんだ、ケイト・ブランシェット!!
たぶん、ケイト様の動きをずっと見守っていれば、1回目の鑑賞でこのウインクに気づいたはず。しかしあたし、うかつにもルーニー・マーラの演技の方ばかり見ていて、最初はまったく気づかなかったんですよ。ああくやしい。ああもったいない。
思うに、あのおきゃんなかわいらしさこそが、キャロルの魅力の真骨頂なのではないかと。先日のアカデミー賞授賞式で、日本側スタジオのコメンテーターがキャロルのことを「イケメン」などと評していましたが、何もわかってないと思います。女が好きな女のかっこよさを「男のかっこよさ」枠に入れて簒奪しようというたくらみ自体がまず間違っているし(ハージもびっくりの男性中心ステレオタイプ思考だ、とあたしは思いました)、キャロルはただかっこいいだけじゃなくて、お茶目なところもあぶなっかしいところも多々ある、めちゃくちゃかわいらしい人なんだよ! 男に、いや女でもキャロル以外の人間に、あんなキュートなウインクができてたまるかあっ!!!!
ぴょこたんテレーズの愛らしさ
ウォータールーのモーテルでキャロルが拳銃をひっつかんでトミー・タッカーの部屋へと走り、慌てたテレーズが一生懸命後を追い掛ける場面があるでしょう。このときのテレーズの足取りが、子供みたいにぴょこたんぴょこたんしていてたいへんに愛らしいです。初回鑑賞時はあの銃で誰か死んだり殺されたりするのではないかと気が気でなく、とてもそこまで見ている余裕がなかったのですが、いざストーリーを把握してから落ち着いて見てみて、やけにいとけない歩き方だということに気づきました。のちにタイムズ社の前でハイヒールをはいて道を横切っていくときの歩き方とはだいぶ違っていて、こんなところでも彼女の変化は表現されていたのかと感心してしまいます。ルーニー・マーラ……おそろしい子……!
2回の"That's that."
キャロルは映画の中で2回、"That's that."という言い回しを使っています。最初はテレーズから列車セットを買ったとき。2回目は、リッツ・タワー・ホテルのラウンジで、テレーズと話をするとき。
"That's that."というのは、話や議論を打ち切るときの決まり文句です。直訳するなら「では、そういうことで」とか「ともかく話はこれまで」てな感じでしょうか。本作品を初めて見たときには、おそらく高級品であろう列車セットの値段も聞かず、もう一度ガラスケースのところに見に行くことさえせずに "That's that. Sold."(決まりね。買うわ*1)と言ってのけるキャロルの優美な大胆さにまず痺れました。いや何回見ても痺れるんですが。キャロルの思い切りのよさのみならず、テレーズへの興味や好意の芽生えをもほのかに暗示してみせる名場面だと思います。
しかし鑑賞を重ねるごとに思ったんですが、この最初の"That's that."は、実は2度目の"That's that."のための軽い伏線になってるんじゃないかと。すごい局面でこれを言うんですよ、キャロル。あのリッツ・タワー・ホテルでのあくまでエレガントな、しかし内実火花が飛ぶような丁々発止の口説きトーク(その意味ではこの場面、序盤の『手袋ランチ』と双璧をなしてますよね)で、大事な持ち札「オーク・ルームでの会食」にテレーズが答えなかったとき、一瞬の間を置いてすぱりと"That's that."(これでおしまい/それはそれで仕方ないわね*2)と言い切るんです彼女。あの綱渡りのようなギリギリの掛け合いの中で、です。
「えええええ今そこでそれを言うかキャロルー!?」と、初めて見たときは度肝を抜かれました。ホントにここで退いてしまっていいのかと。決断するの、早すぎるんじゃないかと。しかし何度か見ているうちに思ったんですが、この場面でキャロルがこうも鮮やかに一歩退けるのは、持ち前の大胆な判断力にプラスして、彼女の求めるものがハージやリチャードとは180度違っているということもあるのでは?
キャロルが心から求めているのは「テレーズをそばにいさせること」ではなく、「自分の本質に逆らって生きるのをやめること」だけです。つまり、キャロルがここで全身全霊をかけて試みているのはあくまで自分の気持ちを伝えることであって、テレーズの気持ちや行動をコントロールすることではまったくないわけ。愛する人からの拒絶に取り乱すでも食い下がるでもなく、ましてやハージやリチャードのように脅したり恩を着せたりするでもなく"That's that."と言える勁さと気高さは、ここから来るんじゃないかなあ。
非常に面白いことに、"That's that."と言って一旦引き下がったあと、一瞬の間をおいて映画内随一の殺し文句を放つんですよねキャロル。怒濤の口説きラッシュが止まって虚を衝かれた次の瞬間にこう来るだなんて、あたかも見えない角度から必殺のロングフックでテンプルを打ち抜かれるようなもので、観客もテレーズもメロメロになるに決まってます。そんなわけで、あの2度目の"That's that."は(もっと言うなら、キャロルの基本的な大胆さを説明している1度目の"That's that."も)、この殺し文句の破壊力を高めるための大事なジャンピングボードになっているのではないかと自分は思いました。自己愛が混じり込んでいない無垢の愛をこのタイミングでこうさらけ出せるというのは強いわ、やっぱり。
蛇足
今回のアイキャッチ画像は、伏見ミリオン座館内の『キャロル』ポスターに貼られていたケイト様の写真です。プロモーションでの来日時のものと思われます。
まとめ
細部まで緻密に作り込まれた映画なので、書きたいことはまだまだたくさんあるのですが、とりあえず本日はここまで。ひとつだけ強調しておきたいのは「キャロルのあのウインクを大画面で見るためだけに映画館に足を運んでも、余裕で元が取れる」ということです。予想通りオスカーは取れなかった(理由はたぶん、AfterEllenのトリッシュさんの指摘通りでしょう)ため、本作品の日本での上映期間はおそらく短くなるでしょうし、あと何回映画館で観られるか心配ですが、できる限り通い続けるつもり。Keep Caroling*3!(かけ声)
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