石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

あの人がついに帰還!!!!!!―ドラマ『スーパーガール』2x21感想(ネタバレ)

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この! 時を! 待っていた!

ダクサム星の生き残り艦隊からの総攻撃で混乱を極めるナショナルシティに、ついにあの人が帰ってきます。この! 時を! 待っていた! 全体的に女性陣の活躍がすばらしく、スカッとする回でした。

まさかここまで直球で来るとは

2016年11月8日におこなわれた第58回米大統領選の前夜のことは、あたしはおそらく生涯忘れないでしょう。この日『スーパーガール』はS2E5を、つまりあのレズビアン・フィクション史上に残ること必定のアレックス・ダンバース(カイラー・リー)のカミングアウト回を放映したばかりでした。おそらく、世界中の多くのレズビアンがアレックスのカミングアウトに泣いたり笑ったりしながら、「これで一晩寝て起きたら、現実世界でもマダム・プレジデントの誕生か(『スーパーガール』の世界では大統領は女性で、しかも演じているのは初代ワンダーウーマンのリンダ・カーターです)」と思っていたはず。事前の予想ではヒラリーの圧勝と報じられていましたからね。

ところが蓋を開けてみれば、選挙結果はトランプの勝利。そしてその直後から、ネット上ではホモフォビックな書き込みが激増し、ネット以外でも非白人や移民、女性、LGBTの人々、イスラム教徒などをターゲットとしたヘイト事件が多数勃発。マイノリティたちは"Resist"(抵抗せよ)を合言葉に戦い続けざるを得なくなりました。そんな中、あたしがすがるように思っていたのは「『スーパーガール』はきっと何か言ってくれる……!」ということでした。排外主義や女性蔑視にずっと反対し続けてきたこのドラマなら、このひどい状況に一矢報いるためのメッセージを必ずや盛り込んでくるだろうと。

で、このS2E21こそが、まさしくそのメッセージの回だったんです。しかも、ド直球の。

何が起こるのかというと、あのキャット・グラント(キャリスタ・フロックハート)があっと驚く方法で帰還を遂げるんですよ。そして、「ダクサムを再び偉大に("Make Daxam great again")」というキャッチフレーズで地球を侵略し、あろうことかそれが地球人のためでもあるとうそぶくレア女王(テリ・ハッチャー)の横っ面を思いっきりひっぱたくような名スピーチをするんです。しかも2回。

このうち2回めの、キャットがキャット・コー本社からの中継でナショナル・シティ市民全員に向かって語りかけた台詞から、一部分だけ簡単に訳して以下に引用してみます。

抵抗してください。この侵略者たちに、持てるすべてのものを使って抵抗するんです。

彼女らは嘘の約束をかかげ、握りこぶしを作ってやってきました。彼女らはこの世界を再び偉大にすると約束しているけれど、実際に世界を偉大なものにしている人たちのことは何も知りません。わたしたちを騙せるつもりなんです。じゃ、もし騙せなかったら、どうなる?

エイリアンたち、そして人間たち、わたしたちは結束して、立ち上がって、反撃しなければなりません。すべての人がスーパーヒーローにならなくては。全員が立ち上がって、「ここで好き勝手はさせない」と言わなくては。

Resist. Resist these invaders with everything you've got.

They come with empty promises and closed fists. They promise to make our world great again, and yet they know nothing about the people who make this world great. They think they can con us. And if that doesn't work, what?

Aliens and humans, we need to band together and we need to stand up and fight back. Everyone needs to be a superhero. Everyone needs to get up and say, "Not in my house."

どう見たってこれ、ナショナル・シティと現実の米国を重ね合わせた上での、キャットからの「#resist」っていうメッセージよね。上記引用部分だけ見るとなんだか堅そうなスピーチにも見えるかもしれませんが、実際のキャットの語りにはあのレア女王相手に一歩もひかぬ飄々とした態度(ティアラについての一連のおちょくりがいいですよ)や皮肉、独自のユーモアなどが絶えずちりばめられていて、目が離せない魅力でいっぱいです。これだよ。これを待ってたんだよ。このキャット・グラントからの励ましを、ここ数か月ずっと待ってたんだよ……!!

余談ですが今回キャットの見どころは他にもたくさんあって、おすすめは(1)大統領とマブダチになったいきさつ、(2)飛んでいくスーパーガール(メリッサ・ブノワ)を見ながらある言葉をつぶやきかけ、言い直す場面のゲイゲイしさのふたつ。もう第3シーズンではキャットが大統領になって、スーパーガールと恋をするといいと思うよ。それぐらい重要でインパクトあるキャラですよこの人。

他の女性陣も皆よかった

アレックスがDEO本部を脱出するときの大ジャンプときたらバッドアスなアクションヒーローそのものでしたし、その後命からがらアレックスと再会したマギー(フロリアナ・リマ)が笑いながら言う冗談も気が利いていてよかったです。ここでマギーに、「ヨヨと泣き崩れ、『よかった、生きてたのね』とかなんとか言いながらひしと抱きつく」みたいな古臭い行動をとらせないところはさすが。この後アレックスが危険な任務につくとき、マギーがあたりまえのように援護に回るというバディもの展開もクールでした。どっちかがどっちかを一方的に守って愛情を勝ち取るんじゃなく、最初から両方ともヒーローなのよ、このふたり。それでこそサンバース。

他には、レア女王の船に拉致され、脅迫されていたレナ・ルーサー(ケイティ・マクグラス)が、冷静かつ確実にダクサム兵を倒して道を切り開くところも痛快でした。一緒に捕まっていたモン=エル(クリス・ウッド)が「一生スーパーマンに変身しないクラーク・ケント」のようなとぼけたドジキャラとして描かれていたのと好対照だったと思います。

思うにこのシーズン2ではこれまで、シーズン1では明確に打ち出されていた「強い女性を描く」というテーマがずいぶん弱められてしまっていたように思います。レズビアンのカミングアウトやロマンスなどの部分こそ丁寧に作りこまれてはいたものの、それ以外の部分ではセルフィッシュな男性キャラ(たち)がなぜだか妙に厚遇され、鋼鉄の女であるはずの主人公が彼らに振り回されて困り顔をしまくる展開が多かった気が。今シーズンの視聴率がぱっとしなかった(最も視聴率が高かったのはアレックスとマギーの恋が成就する第8話で、それ以降は低迷したままだった)一因は、ひょっとしたらこのへんにあったのではないかとあたしは疑っています。この21話、つまりシーズン最終話からふたつ目の回になって元の路線が復活したのは喜ばしい限りですが、正直もっと早く軌道修正してほしかったです。シーズン3では同じ轍を踏まないでくれるといいんだけど。

余談

モン=エルだけでなくレナもレア女王に拉致されるという展開にしたのは、そうしないと視聴者が「モン=エルだけなら、さっさと船ごと吹き飛ばしちゃえ」と思ってしまうからではないかという指摘がAutostraddleのコメント欄にありました。これってかなり当たっているのでは。「テストステロンに突き動かされた中身空っぽのうぬぼれ屋」(今回、そういう言い回しをキャットが口にする場面があるんです)にうんざりしているのは、別にキャットだけじゃないと思いますし。

まとめ

シーズン2に欠けていた要素を一気に埋め合わせてくれるかのような、痛快な回でした。キャリスタ・フロックハートがシーズン2でレギュラー出演しなかったのは番組製作の本拠地がLAからバンクーバーに変わったせいだったらしいのですが、今振り返ってみると、この損失はものすごく大きかったと思います。キャットは単にカーラのメンターであるだけでなく、本作品の一番のスーパーヒーローなんですよ。もっと出さなきゃだめだよ。

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